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(FIG.-11)

そういう氷床の崩壊を示すような、要するに氷山が運んできた粗い堆積物が、先程、お話しした「ダンスガード・サイクル」とどういう関係にあるかというのを調べて見ますと、図の様になります。図の一番向こう側にある、青い色の奴がグリーンランドの酸素同位体比の記録です。黄色で示しているのが堆積物中に入っている粗い粒子の量です。それから、一番手前側にある紫色のが、有孔虫の化石の巻き方の方向の変化なのですが、これは、海水の表層の水温を表しています。暖かい方が赤い矢印で示してありますが、この関係を見ますと、ダンスガード・サイクルで一番寒くなる時に氷山が落としていったレキの層が堆積していること、これを「ハインリッヒ・イベント」と呼ぶのですけれど、そう言うイベントが見られる事が分かりました。それから、ハインリッヒ・イベントが起こった直後に北大西洋の表層の水温が、急激に暖まる事も分かってきた訳です。

即ち、ダンスガード・サイクルとやはり連動して氷床の崩壊、それから、崩壊が終わったあと、氷床はまた大きくなって行き、それが成長してまた崩壊するという現象が、密接に関係して起こっているという事が分かったのです。それから北大西洋の表層水温の変化も分かって来ました。

 

(FIG.-12)

実は北大西洋というのは、現在に於きましては表層水循環の出発点となっています。図はブロッカーという方が模式的に示された深層水循環の経路で、「ブロッカーのコンベア・ベルト」という風にして呼ばれていますが、この深層水起点が、丁度、北大西洋の北部にあります。そこに氷山が大量に流れ出る訳です。そこに氷河から溶けた水が流れ出るという事により、実は表層水だけではなくて、深層水循環もダンスガード・サイクルに運動するかっこうで、強くなったり、弱くなったりしたという事も分かってきました。きょうは余り細かい事をご説明する時間がないのですけれども、そういう風にしてダンスガード・サイクルというのは気温の変動だけではなくて、氷床の成長、崩壊、それから表層水、深層水の循環の強さの変化、あるいは様式の変化と言った様な地球の表層にある、いろんなサブシステムの非常に複雑なinteraction(相互作用)によって起こっているという事が分かってきた訳です。

 

(FIG.-13)

さらに、大陸氷床が大量に崩壊して海に流れ出ると、当然、海水準が上がります。こういう海水準の変動が、どうも、氷床の崩壊に伴って起こっているらしいという事も考えられるようになってきました。この事は充分に証明された訳では無いのですが、この図の海水準変動の曲線はニューギニアの隆起サンゴ礁の研究から復元された曲線です。図にHの1.2.3.4.5と矢印を書いてありますけれども、これは、先程お話ししました、ローレンタイド氷床が非常に大きく崩壊した時期に対応しています。

そうすると、タイミング的にパーフェクトに合っているとはいいがたいものの、どうもニューギニアで見られた高海水準のスパイクとハインリッヒのイベントとが合っている様にみえる、ニューギニアの研究の結果だと最終氷期に於ける数千年周期の海水準変動の振幅が20m近くあるという事になります。ハインリッヒ・イベントというのは、大体1000年以内に終了したという風に見積もられていますから、そうすると年間に数センチの割合で海水準が上昇したという事になる訳です。海水準変動もダンスガード・サイクルのシグナルをglobalに拡げるのに一役買っている可能性がある訳です。

 

(FIG.-14)

という事で、これまで最終氷期のお話しでしたけれど、当然、次の様な疑問が沸き起こる。では、こういう風な気候変動が北半球に大きな氷床がなかった間氷期にも起こるだろうか、その結果、地球全体の環境というのは、どういう風に変わるのだろうか?

 

 

 

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