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(2) 廃油ボールの実態
 (1)で述べた海洋汚染の発生確認件数は、海洋に排出された油や廃棄物などによる海洋の汚染現象を、件数的にとらえたものであるが、油による海洋の汚染状態を示すものとして、廃油ボールによる汚染現象が広く知られている。この廃油ボールと称される固形状あるいはタール状の油塊が、我が国の沿岸に漂着し、海浜の自然環境を損ねるなど社会の注目をあびるようになったのは、昭和40年代前半からである。その後、我が国の産業経済の急速な発展に伴う原油輸送量の急増とともに、廃油ボールの漂流・漂着も増加して、漁場、海岸、海水浴場などに大規模な油濁被害を生じさせる等海洋環境に重大な影響を与えるようになった。
 廃油ボールは、直径1〜15ミリメートルの油塊から、大きいものは直径数10センチメートルにも及ぶ油塊もあり、また、沿岸に大量に漂着する廃油ボールは、1回の漂着量が数トンから時としては数十トンにも達する場合がある。これらの大量の廃油ボールは、ある日突然押し寄せる場合が多く、一夜にして幅数メートルの黒い帯が、数キロから十数キロメートルにわたって海岸を汚染し、海洋環境を著しく破壊することとなる。
 この廃油ボールによる海洋汚染は、単に我が国だけの問題ではなく、世界各国とも深刻な問題として受けとめられている。海上保安庁は、46年6月から我が国周辺海域における廃油ボールの漂流・漂着状況について、その防止策を講じるため実態調査を継続的に実施してきている。その後ユネスコ(国連教育科学文化機関)の一機関であるIOC(政府間海洋学委員会)が、IGOSS(全世界海洋情報サービスシステム)の海洋汚染モニタリング・パイロット・プロジェクトを策定したことから、我が国も49年10月、このプロジェクトヘの参加を決定し、55年にGIPME(海洋環境汚染全世界的調査)の海洋汚染モニタリング計画に移行されてからも国際的に統一された観測手法により実態調査を実施している。
 これまでの海上保安庁の調査結果によると、廃油ボールの漂流・漂着は、漂流は、MARPOL73/78条約の構造設備規制、監視取締りの強化等もあって、ひところのひどい汚染状況はみられなくなっており、平成9年の調査結果によれば、漂流は前年に比べ大幅に減少し、漂着も前年に比べ減少した。廃油ボールの発生原因は、主として外航タンカーが、産油国へ向う航路にあたる南支那海等において排出するダーティーバラスト水等の油性混合物の中に含まれる油分が、凝固することによって生成されることによるものと推定されている。
 廃油ボールが依然として我が国周辺海域に漂流・漂着しているという事実及びまれとはいえ前述のような大量の廃油ボールが漂着するという事件が発生することから、これらの油性混合物を適正に処理せずに不法に排出しているタンカーが存在するということも考えられる。
 この廃油ボールによる汚染防止については、タンカーにおける油性混合物の適正な処理と、外国船舶も含めた関係者の遵法精神の高揚による違法排出の防止が強く望まれるところである。

(3) 海上漂流物の実態
 最近、全世界的な地球環境問題の1つとして、海洋におけるビニール、発泡スチロール等の海上漂流物による航行船舶、海洋生物への被害等の海洋汚染の問題が指摘されているが、海上保安庁ではこれらの海上漂流物の実態を把握し適切な対応を行うため、平成3年1月から定期的に目視による調査を実施している。
 平成9年の調査結果によると、全体の約75%を発泡スチロール、ビニール類等の石油化学製品が占めており、前年に比べて確認した漂流物は増加している。
 これらは、陸上で捨てられたものが海上に流出したもの、海上において捨てられたもの等が考えられるが、汚れのない海にするために、人々のモラルや遵法精神の高揚に努め廃棄物の適正処理について指導を強化してゆく必要がある。

 

 

 

 

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