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依田成史の 意思決定――誰が、何を、どのようにして決めるのか

スポーツクラブ・マネジメント1]

 

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横浜カントリーアンドアスレチッククラブ(YC&AC)ゼネラルマネージャーとして22年間勤務。

 

昨年12月の「スポーツクラブをつくりましょう」という講演で、<会員の会員による会員のためのスポーツクラブ>についてお話ししました。いま一歩踏み込んだ内容でスポーツクラブのマネジメントに関する解説を引き受けてくれないか、との依頼がありました。できるだけ具体的な、そしてクラブづくりを真剣に考えておられる皆さんにお役に立つ問題を例にとって書き進めていきたいと思います。

クラブマネジメントの根幹をなすことはたった一つです。意思決定の仕組みをどうキチンと作るのか、ということなのです。

YC&ACの場合、最高議決機関は、月1回開かれる「理事会」です。理事は7名。総会で、男性正会員の票決で選ばれます。理事の互選で理事長、副理事長を決め、1]スタッフ、2]財務、3]会員規約、4]スポーツ、5]グラウンド、6]クラブハウス、7]娯楽、8]広報、9]飲食の9部門の責任分担を同時に決めます。

9部門の意思決定は、それぞれに総会で選出された委員長、副委員長、若干名の委員で構成された委員会で行われます。委員長が、委員会決定事項を担当理事を通じて理事会に挙げ、最終承認を得ると、あとは実働部隊、つまり私たち従業員スタッフの登場ということになります。

実働部隊の意思決定は、スタッフ主任会議(マネージメントスタッフの週例会議)があり、これが現場の意思決定会議になります。議長は私が務めます。

クラブ運営を大きく9つの部門に分け、各部門の委員会で問題を発見し、検討し、改善の判断、理由といったことを討議し、委員会の意思として理事会に諮る。やるべきことを決める、次にいかに迅速に実施するかを決める、スピード、正確さの点でYC&ACの意思決定の役割分担の仕組みは明確でそして不透明さはありません。

こうしたことを念頭において、今回は、理事会について、個人的に常日頃考えていることを書きましょう。つまり、スポーツクラブの運営に携わるトップの意識はどうあるべきか、YC&ACの例をひいて考えてみたいのです。

1]理事は、提出された各議題について、自分の言葉で相手の理解を引き出すように自己主張し、その意見には普遍性がなければなりません。現在の理事の国籍は、オランダ(理事長)、アメリカ(副理事長)、イギリス、ドイツ、インドの5カ国。いってみれば、YC&ACという狭いグループにだけ通じる意見ではなく、世界に通じる意見であるということです。人間性がぶつかるような政治的な駆け引きはないわけで、純然たる自己主張ですから、会議が終了すれば和気あいあい、フェアプレーの精神が貫かれています。

2]議長となる理事長は、議題のすべてに精通していなければなりません。また、そうなるように、マネージャーとしての私が力を貸しています。リーダーシップが醸成され、他の理事もそれを理解し協力します。1年の任期が終われば、一理事に退き、新理事長のもとでその役割を全うします。また、理事の任期(3年)が終了すれば、一会員としてオールイーブンの状態に戻り、クラブライフを楽しむことに専念します。この22年間、その体制は続いています。名誉職、名ばかりの理事や理事長は必要とせず、また周りがそれを許さないクラブ風土が根づいています。

3]各理事は、担当する委員会の委員長と常に連絡をとり、コミュニケーションを絶やしません。委員会にもオブザーバーとして参加し、何が問題となっているのかを肌で感じるまでに理解しようと努めますし、又、理事の考えを伝えます。

4]討議の場には、あらゆる事実関係を提出し、質疑応答には明確に答え、意見には対案となる意見で答えなければなりません。議論の場で意見を出さないと、無能と判断されます。建前と本音を分けず、主張の正当性でもって判断する強固な意志が必要になります。

5]つまり、クラブとは考え方や興味が同じ人間が、個人の資格で平等にお金や時間、知恵を出し合って運営する任意の集まり。これを運営していくには、決して受け身であってはならないのです。自ら進んでやる、自己主張する、相手の意見を聞き、感情に流されずに冷静に判断でき、一旦決まったことは迅速に実行する。これが理事を務めるものの最も重要な責務なのです。

YC&ACの理事たちの熱意には本当に頭が下がります。でも、日本の方にこうした話をすると、みなさん別次元のことのように反応します。外国のクラブを視察して帰って来られた方も、歴史や国民性を挙げて「あれはあの国だからできること」という感想をもらします。でも、考えてみてください。日本人が「個人」の立場になると、いま私があげたような「理事」の資質のどれもが不得手になってしまうのはなぜなのか? それへの明確な回答がクラブづくりのスタート地点なのではないでしょうか。

 

長崎宏子の「私のスポーツクラブ」 ●最終回

理想のクラブは、もうすぐできる?

人間がなぜスポーツをするのか。

「原点」に帰って、クラブづくりを考えたい

 

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長崎宏子プロフィール

1968年秋田市生まれ。12歳で平泳ぎ日本一。モスクワ・ロス・ソウル五輪競泳日本代表。現在はスポーツコンサルタントとして活躍中。

 

 

長野冬季五輪の開催期間中、多くの日本人がスポーツに関心を寄せた。メダリストへの賞賛と感動だけでなく、自らトライしてみようというチャレンジ精神の体感。わが家でも2歳の娘は、「スケートしたいな」と言いだし、「絶対、スキーのオリンピック選手が良いわ!」と言い張る子供にも出会った。親としては子の望みはかなえてあげたい、チャンスはできる限りオープンに……と思うが、常に最初に立ちはだかる難関は「どこで?」。その解決策をスポーツクラブに求めるのが理想だが、それさえも難しく、そうこうしている内に、小さい子供のこと、五輪熱も冷めようとしている。それならせめて、子供たちの心にスポーツの理念や大切さだけでも残しておきたい……と願っていたところ、駐日モンゴル国大使館のダワードルジ書記官の言葉に勇気づけられた。

遊牧民族にスポーツなどと思いきや、力士・旭鷲山の頑張りで日本でも一躍有名になったモンゴル相撲を筆頭に、競馬、古代アーチェリーといった伝統を重んじるスポーツから、レスリングや柔道、ボクシングと、オリンピックを意識した選手強化が近年盛んになってきたモンゴル。長野でもクロスカントリースキー選手がたった一人、必死の参加を実現したのは記憶に新しい。極度の経済難から脱しようとするこの国は、スポーツをエリート化、プロ化との方向へと導き、スポーツフォアオールを絶滅の危機に追いやる傾向にある。子供たちがスポーツを楽しめる唯一の場、学校のグラウンドを「無価値な土地」として、そこに企業ビルの建設を推奨した。子供たちは、遊び場=スポーツの場を失い、大人は生活の苦しさから、心身共にスポーツをする余裕を失った。しかし、そんな時だからこそ、スポーツが心の支え、元気の源と信じる人が増えているという。日本の影響を大いに受けるモンゴルで、相撲や野球、サッカーを中心に、民営スポーツクラブシステムを確立することで、エリート化が進むモンゴルスポーツ界にスポーツファアオールの息の根を絶やさないようにしていきたいと、ダワードルジ氏は熱く語っていた。「モンゴル国民にはスポーツ理念が宿っている。大丈夫……理想のクラブはすぐにできる」。応援したくなった。

日本では最近、財政難が騒がれてフィットネス産業も生き残り戦争が過熱しているが、それでも世界から見ればやはり経済大国で、クラブ経営もビジネスセンスがキーポイントとも言われている。しかし、YC&AC総支配人の依田氏がSSFスポーツフォーラム'97でも強調していたように、「まず始めに理念ありき」で、これまでこのコラムの中で見てきた国々のスポーツクラブ経営に共通するのは、常にスポーツ哲学がバックグラウンドに存在するという点である。スポーツクラブを単なるスポーツマシン置き場とし、経営者側はビジネスの場、参加者側はエリートアスリート養成所もしくは健康促進の場と割り切るのは容易だが、そこに哲学、理念が存在しなければスポーツライフ、スポーツが人生に必要不可欠なものとして成り立っていかない。「人間がなぜスポーツをするのか」の原点に帰れるクラブでなければ。

長年のアスリート生活とその後のスポーティヴライフの中で、私は、スポーツはとても奥深いものだということを知った。だからこそスポーツクラブは、ある国では人間に生きる希望を与える唯一の場であり、また、ある国ではどこよりも余暇を充実させる場であり、日本でも学校教育、家庭教育にはできない心身教育を子供たちに提供できる場になり得るパワーを秘める、と信じることができる。一定の会費を支払えば、誰でもスポーツクラブライフは始められる。しかし、そのクラブのドアを開け、そこに「様々な背景を持つ人々が、あらゆる立場を超えて同じスポーツ活動を自由に楽しむ場」の空気を感じられれば、もっと素敵なクラブライフがスタートし、永遠のメンバーシップを得ることができる気がしてならない。

今回で連載は最終回ですが、これからも私なりのスポーツクラブライフについて問いかけていきたいと思います。今後は次のURLでお目にかかりましょう。

 

「インターネット スポーツ塾」

http://village.infoweb.ne.jp/~hiromare/

 

SSF・TOPICS

 

http://www.ssf.or.jp/

E-mail:ssf-info@ppp.fastnet.or.jp

 

「SSFスポーツセミナー」報告

 

SSFでは去る4月6日に「スポーツ情報サービス〜学界の動向を探る」をテーマにスポーツセミナーを開催いたしました。今回は、国際スポーツ情報協会(IASI)からネリダ・クラーク会長及びブルーノ・ロシ=モリ理事を招き、スポーツ情報サービスシステムの国際動向や欧州のスポーツ特報ネットワークシステムなどの話を中心に、スポーツ情報に関する世界の最新の動向を語っていただきました。参加者も130名と、定員を上回る盛況ぶりでした。

SSFで今後もスポーツ・フォア・オールを推進させるための各種セミナーを開催していきます。ご期待ください。なお、セミナーの内容(テーマ)について要望がありましたら、SSFまでご連絡ください。

 

'98マリンスポーツ・開催カレンダー

 

大型パワーボートレース

6月 瀬戸内ローズカップ(福山)

7月 横須賀パワーボートGP(横須賀)

 

F3000シリーズ戦

5月 諏訪湖 6月 浜名湖 8月 小名浜港・牛堀町 12月 芦ノ湖

 

ジェットスポーツ全日本選主権シリーズ

5月 南知多町 6月 三国

8月 銚子 9月 田尻町

 

水上スキー

8月 全日本(社会人)信州新町

全日本(学生)小見川

 

ソーラー&人力ボート

8月 全日本選手権(浜名湖)

11月 スピード記録会(潮来町)

 

主催(財)マリンスポーツ財団

TEL:03-3543-7321

 

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文部省人事紹介(生涯スポーツ課)

課長…工藤敏夫★ 課長補佐…下地隆

スポーツ指導専門官併課長補佐…坂元譲次★

専門職員…森岡裕策

庶務係…山岸仁(係長)、村上淳一、戸崎しのぶ

振興係…塚本良平(係長)★、川俣昭

スポーツサービス振興室室長補佐…窪田修

企画調整係…田中聡明(係長)、泉田勝★

調査係…長登健(係長)★、八島和彦★

 

H10・4・1現在、★印は4月1日付けで異動された方(敬称略)

 

「国際海洋シンポジウム'98」開催!

昨年に引き続き、今年も7月28、29日に東京ビッグサイト国際会議場において、「国際海洋シンポジウム'98」〜海は人類を救えるか〜(主催:日本財団、朝日新聞社、国民の祝日「海の日」海事関係団体連絡会)が開催されます。海を様々な角度から取り上げ、内外の著名な学識経験者がその重要性を論じ、国際交流と相互理解を深めるとともに、その内容を世界に発信するシンポジウムです。参加は一般公募で1日1,000名を予定しています。参加に関する申し込み・お問い合わせは、国際海洋シンポジウム'98登録事務局(03-5574-8632)まで。

 

 

 

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