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ここまでは主に磁性体による磁気シールドに関する話であったが、他にも現実のものに近い浮上式鉄道車両に、アクティブシールドを適用した報告[9]や高温超電導(酸化物超電導)シールドを適用した場合の概念設計(図3.4.18)及び重量の見積もりを行った報告[10]などがなされている。

(中)強磁界遮蔽の代表例としては他にMRIがある。これらは国内では5Gauss以下に磁界を低減することを目標に、純鉄を用いた磁気シールドを超電導磁石周りに施している。磁気浮上式鉄道と大きく異なる点は、あまりシールド重量を考慮する必要が無い点である。他には超電導エネルギー貯蔵装置(SMES)に関した磁気シールドの設計例などがある[11]

次に磁気シールド材料(磁性体)の選択について述べる。磁気シールドの際に求められる特性は、目標とするだけの磁界強度レベルに見合った透磁率及び飽和磁束密度である。前者が高ければそれだけ高い磁気遮蔽率を達成でき、後者が大きければ必要な磁性体体積(重量)をそれだけ減らすことができる。特に軽量化を要求される磁気浮上式鉄道では飽和磁束密度が高いことが求められので、鉄系の磁性材料(純鉄等)が選択されている。

さて磁気シールドするにあたっては、達成すべき磁界の目標値(基準)を定めなければならない。現在統一的なガイドラインや合意は存在しないが、いくつかの基準案があるので紹介する。それには主に磁界の人体への直接的作用(健康被害)を勘案して決めた基準案と、ペースメーカ装着者に対する基準案の二つがある。いずれも直流磁界に関するものと変動(交流)磁界に関するものとがあるが、ここでは直流磁界に関するものに限定する。前者に関してはNPRB(英国放射線防護局)の2000Gauss以下(24時間平均、1993)やCENELEC(欧州電子技術標準委員会)の400Gauss以下(連続暴露、1995)、ACGIH(米国産業衛生監督官会議)の600Gauss以下などがある。一方ペースメーカの誤動作を避けるために設けられたガイドラインには、ACGIHやIEC(国際電気標準会議)の10Gauss以下や日本の5Gauss以下(医療機関の申し合わせ)がある(表3.4.6)[12]。現在日本の公共交通機関では、磁界強度に関する明確なガイドラインは存在しない。現在山梨で実験線で実験が進められている超電導磁気浮上鉄道においては、NPRBの古い基準を参考にして20Gauss以下を目標とすることが定められている[13]

ここでは述べなかったが、変動磁界に対するガイドラインは現在いろいろな機関でその暫定案が作成中であり、その磁界レベルは直流磁界に対するものより厳しくなる傾向にある。

 

[1] 大崎他:'特集 磁気シールド技術'、pp203-222, 電気学会誌116巻、4号、1996年

[2] Y. Iwasa: 'Magnetic Shielding for Magnetically Levitated Vehicles', Proceedings of IEEE, pp598-603 May 1973.

[3] 大熊他:'浮上式鉄道における強磁界遮蔽'、電気学会論文誌B、第100巻12号、pp715-722

[4] W.Hayes:'Magnetic Field Shielding for Electrodynamic Maglev System', Proceedings of International Conference on Maglev and Linear Drive, pp53-66, IEEE, Las Vegas, May, 1987.

 

 

 

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