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3.4.3 磁気シールド

超電導電磁推進船を始めとして、超電導磁石は一般に空芯コイルであるため周辺への漏洩磁界が大きい。従って周囲の磁界をある程度以下に押さえるために、磁気シールドが必要になることがある。これらは遮蔽すべき磁界が直流(定常)であるため直流(磁界)シールドと呼ばれる。その他一般には変動する磁界(交流磁界)を遮蔽するための交流(磁界)シールドもあるが、超電導電磁推進船に関係の深い、直流シールドのみを扱うことにする。さて直流磁界のシールドにも、大きく分けて二つある。一つは地磁気のような1Gauss以下の微弱な磁界を遮蔽する場合であり、SQUIDで心磁界や脳磁界の測定をしたりする場合に必要になる。もう一つは(超電導磁石から発するものも含めた)比較的強い磁界(10-数10Gauss以上)を遮蔽する場合であり、このような状況は超電導電磁推進船以外ではMRIや超電導磁気浮上式鉄道などに現れる。以下では後者の比較的強い磁界の遮蔽に限定して紹介する。交流シールドも含めた一般の磁気シールドについては、文献[1]を参照。

超電導磁気浮上式鉄道は乗り物の車上(船上)に強力な超電導磁石を搭載する点など、超電導電磁推進船と共通点が多い。磁気浮上式鉄道において強磁界シールドを取り上げた初期の論文としては、[2]があげられる。浮上して走行するので磁気シールドも含む車両重量が大きな問題になるが、軸対称問題に簡略化した形で磁気シールドに必要な磁性体重量を概算している。またアクティブシールド(磁気シールドのための専用の(超電導)コイル=キャンセルコイルを付加して漏洩磁界を下げる方法)についても言及している。彼(ら)は超電導磁気浮上式鉄道の磁気遮蔽方法としては強磁性体による磁気シールドとアクティブシールドの併用がよいと述べている。それ以降の磁気浮上式鉄道の磁気遮蔽の論文も基本的に上記論文[2]を踏襲している。文献[3]では2次元問題に簡単化した上で磁気シールドに必要な磁性体重量を算出するとともに、アクティブシールドについて具体的モデルで詳細に論じている。また磁気シールド面から見た各種の超電導磁石配置の得失について最初に論じた論文でもある。[4]ではより具体的な磁気浮上式鉄道車両(日本のMLU-002等)を対象とした磁気シールド評価を行っている。文献[2]や[3]では乗客に対する直流磁界を50Gauss(5mT)以下にすることを目標としている。

以上は歴史的な文献であるが現在の浮上式鉄道の磁気シールドの現状を以下に紹介する。まずここ十数年来の計算機容量の増大により、一般の3次元領域の磁界計算が可能になり、より現実の車両に近い形での設計が可能になってきた。たとえば[5][6]では一般の(すなわち3次元形状の)磁気浮上車両の磁気シールドについての磁性材重量を見積るとともに、磁気シールド材のある場合の3次元磁界計算を行っている。そして現在の山梨実験線車両は、車両当たり1.1t の純鉄及び無方向性電磁鋼板製の磁気シールド材料を用いて車内磁界を20Gauss以下に低減している[7]。これは磁気シールドが無い場合に比べ1/10以下の磁界強度である。また磁気シールド材料を純鉄から方向性電磁鋼板に変えてさらなる磁界低減を目指した試みや[6]、超電導磁石配置を変更して端部に小さい超電導コイルを配置することで、従来と同程度の電磁力特性を維持しつつ周囲への漏洩磁界を低減する試みもなされている[8](図3.4.17)。

 

 

 

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