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1.3 系統的誤差の算定

 

一般に長期間にわたる船舶観測データには、観測機器の変遷、観測方法の変化やばらつき等の系統的な誤差が介在している。例えば、観測高度がまちまちであったり、日射の影響を除去していないデータが含まれていたり、戦時中の船舶での気温観測が船室内で実施されていたこと等がある。海洋気候の長期変動解析を行うためには、まず、これらの系統的誤差を評価し、データの補正を行う必要がある。

 

1.3.1 海面水温の系統的誤差

 

海面水温の系統的誤差については、C.K.Follandら(1995)の研究例がある。近年の海面水温の測定は、エンジン冷却水の吸水口にセンサーを取り付けて測定されているが、第二次大戦以前においては主としてバケツ採水によって行われていた。C.K.Follandらは、バケツ採水時に、バケツの壁面、底面、水面を通じて熱の出入りが生じることから、バケツ内の海水が失う(または得る)熱量を周囲の気象値により算定するモデル(以下バケツモデル)を考案し、それにより求めた海水の温度降下量(または上昇量)を補正値とした。また、彼らはこの方法による結果を実測値と比較してモデルが適切であることも考察している。図2.1にバケツ採水時の熱収支イメージを示す。海水をくみ取った後から、船上にあげられ、温度計の読みとりが終了するまでの間、バケツは日射、風、周囲の温度・湿度環境にさらされ、バケツと大気との間で図2.1中の式のような熱の移動が行われる。バケツモデルはこの熱収支イメージに基づいている。なお、バケツモデルの詳細は巻末資料として添付した。

彼らのモデルにはバケツのサイズや温度測定時間、バケツの種類の変遷などについて様々な仮定を行っており、疑わしい面もあるが、物理的な過程を忠実に評価した方法であり、実測値との整合性も評価しているため、本報告で取り上げてみた。また、彼らはモデルの入力値としてCOADSデータを使用したが、本報告ではKoMMeDS-NFを加えた合成データを入力値として用いた。KoMMeDS-NFは1910年代〜1920年代のCOADSデータが欠落している期間を補っており、これを加えることは系統的誤差の算定の精度向上に寄与すると考えられる。

 

 

 

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