日本財団 図書館


バケツモデルを用いて算定した採水時における海水温度の変化量の一例を図2.2に示す。これは1860年、1900年、1940年の12月における採水時における温度変化量の全球分布図である。この図より、時代を追って温度降下量が増大していることが理解できる。これは19世紀には採水壁面の厚い木製のバケツを用いており、20世紀にかけて次第に布製バケツに代わった背景がある。木製バケツは布製バケツに比較して保温効果があることからこのような結果を招いている。また、各時代に共通してアジア東岸および北米東岸の温度降下量が大きい。図2.3に年平均海面水温と海上気温の差の全球分布を示す。データは1961年〜1990年の30年平年値である。アジア東岸および北米東岸の温度降下量の大きい海域では、海面水温と海上気温の温度差が大きくなっており、採水時にバケツ表面からの顕熱・潜熱輸送が盛んに行われていると考えられる。

以上により評価した温度変化量を海面水温の補正値とみなし、図2.4に東京、ハワイ、サンフランシスコ付近海域における補正前および補正後の海面水温の偏差の経年変化を示す。いずれも5年間の移動平均値であり、細線は補正前、太線は補正後の値である。なお、1961年〜1990年の30年平均値を平年値とした。

図をみると20世紀前半の東京付近の海域では+0.5℃の補正を行っている。その結果1920年代半ばの約-1.5℃の偏差が-1.0℃の偏差に修正されている。また、ハワイ付近の海域においては+0.2〜0.3℃、サンフランシスコ付近海域では+0.1℃程度の補正がなされている。前にも述べたが、東京付近海域は海面水温と海上気温の温度差が大きいため補正値が大きく、サンフランシスコ付近海域は両者の温度差が小さいため補正値が小さい結果となっている。補正値には地域差、時代による差があり、特に東京付近海域のような大きな補正値を持つ海域について海面水温の長期変動を評価する場合においては、補正を行わずに調査することは、気候の長期変動に関して誤った認識を抱く可能性がある。

ここで用いた系統的誤差の評価方法は一つの方法であって完璧な方法とは言えない。しかし、物理的な過程を忠実に評価した方法なので、完璧な評価方法からかけ離れたものではなく、現段階において最も信頼できる方法と考えられる。従って、以降の海面水温の長期変動解析については、ここで求めた系統的誤差を補正値として用いることとする。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION