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このことからマグニチュードが6.0-6.5以下の地震は津波を起こすことができないといえる。しかしこれを持ってこの境界を絶対化することは危険である。なぜならば地震が小さくても海が浅ければ長波を生成する限界は小さくなるからである。またマグニチュードの値には縦ずれか横ずれかの情報が入っていない。したがって同じマグニチュードでも横ずれの場合は縦ずれより津波を起こしにくい。

また同じマグニチュードでも震源が深いと地表の上下変位は小さくなり津波を起こしにくくなる。

これから津波の大きさは震源深さ一定で、縦ずれと仮定すると地震のマグニチュードに比例して大きくなる事になる。しかしこれも断層の形成が通常の速さで行われた場合のことで、もし断層の形成が格段に緩やかに行われた場合(生成時間が1-2分)地震波の励起が小さくなる。ところが津波の励起には影響しないので、地震のマグニチュードの割には津波が大きくなる。このような地震を「ゆっくり地震」とか「津波地震」と呼んでいる。代表的なものが1896年の三陸地震で、1992年のニカラグア地震もこれに含まれる。このような地震による津波の予測は難しく、津波警報の弱点となっている。

 

○津波の研究

津波をモデル断層に基づいてコンピュータ上で再現することができる。観測された津波波形を説明できる初期変位に対応する断層はどのようなものかを、断層のパラメータを変えながら、数値実験の手法で探す方法が取られる。しかし現在まで一義的にその解が選られる方法は確立されていない。その過程では地震のメカニズム解、余震の分布、広域応力場などの結果が参考にされる。このような方法はモデルがシンプルな事や、海岸地形の再現が細かいところまで行き届かないことのために、十分に再現されているとは言い難い面がある。しかし大局的に津波の性質を知る上でこの方法は大きな役割をはたしている。津波のシミュレーションとは根拠のある初期モデルをもとにした数値実験のことをいう。

 

○まとめ

津波と海底地形は切り離しがたく結びついている。すでに述べたように、津波の速度が水深の平方根に比例することから、津波は常に水深を測りながらそれに応じた速度で伝わっているとも言える。また海底地形そのものが津波を起こすような地殻変動の結果の積み重ねとして形成されてきたものであろう。この事は少ないながらも最近発生した津波の変位場とその背景としての海底地形の関係を見れば解る。海底地形は長い歴史の間に変化し、その節目節目に津波があることになる。津波の研究においては海底地形図や検潮記録は不可欠である。これらの資料を提供していただいている海上保安庁等の協力のもとに、今後とも津波の生成と伝搬にかんする研究を進めたいと考えている。

 

 

 

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