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日本海の海況と漁況

平井光行

水産庁日本海区水産研究所

 

○はじめに

私の所属する水産研究所は、水産資源を貴重な食糧として有効に利用するための施策の根拠となる知見を蓄積するために、日本海を場として「海と魚」の研究を行っている。この機会を利用して、水産海洋研究という分野での研究活動をとおして、日本海の海と魚の現状と将来を紹介する。

 

○日本海とはどのような海か

日本海は、面積が約130万km2、平均水深が1,350m、最深部が3,600m以上であるにもかかわらず、いずれも200mより浅くて狭い対馬、津軽、宗谷および間宮の4海峡で他の海と通じている。この地理的特徴から、日本海は半閉鎖的なくぼんだ形の海といえる。冬にはアジア大陸からの北西季節風、夏には南風が卓越し、大気と海洋との間で活発に熱と水を交換している。対馬海峡から流入する対馬暖流は日本列島沿いに北東へ流れ、他方、ロシアの沿海州沿岸域からはリマン海流が南下して流れている。このため、日本海のほぼ中央部には水温が急激に変化する前線が形成されており、この前線は「極前線」と呼ばれている。

人工衛星画像から海面の温度分布をみると、さまざまなスケールの暖水渦や冷水渦が分布し、対馬暖流は必ずしも明瞭ではない。多数の調査船から得られる200m位の深さの水温分布になると、1〜2度の冷たい水が広く分布し、所々にオアシスのような5〜10度の暖水城がみられる。さらに300m以深になると、もはや暖かい水はみられず1度以下のほぼ均質な水で覆われている。この冷たい水は、「日本海固有水」と呼ばれ日本海全体の約85%を占めている。このように日本海の海洋構造の特徴は、大量の冷たい水の上に対馬暖流系の暖水が薄く分布していることである。

歴史的にみると、日本海は17世紀後半から蝦夷、北陸、大坂間の物資輸送に大きな役割を果たしていた。新潟、佐渡の小木、沢崎をはじめ、日本海各地の港に「日和山」と呼ばれる地名が残っているように、当時の日本海には「北前船」と呼ばれる千石船が活躍していた。「日和山」は、外海に面した港の小高い山の番所に上って北前船の出船・入り船、雲行きや風向き、また海の流れを調べるために日和見を行った場所とされている。海の気象や流れ、水温の状況を調べることは、漁業にとっても重要な仕事の一つで、現在でも海で働く者の基本である。

 

 

 

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