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また、海洋国の利点の一つが安価大量の輸送力であり、海洋の存在する所はどこへでも自由に安価に多量の物資を運びえることから有無相通じる国際貿易や国際分業化を促進し、海洋国家間を相互依存の関係としている。このため、海洋国家は世界的な協調体制や同盟関係を構築する傾向が強く、古来「海洋国は同盟国とともに戦う」と言われてきた。これに対して大陸国家は常に国境を挟んで隣国と臨戦態勢を維持し、侵略を受ければ多量の兵員を動員しなければならなかったため、徴兵制度を取る国が多く陸軍が重視されている。このためか国家の性格は概して専制的であり閉鎖的で、その制度は一般に中央集権的で軍国主義的にならざるを得なかった。そして、近隣諸国への不信感からかつてのワルシャワ体制のように隣国を影響下に隷属させる垂直的な国際関係となりがちである。なお、大陸国家と海洋国家の政治・経済・軍事上の相違点を比較すると次表の通りとなる(6)。

 

海洋国家と大陸国家との価値観・政治体制などの比較

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(2)シーパワーとランドパワーの優劣比較

海洋国家と大陸国家とどちらが国家発展上に有利であろうか。鉄道が物資輸送の主役であった時代には、大陸国家に内線の利点があった。しかし、科学技術の発展による港湾の整備や船舶の大型化にともない、徐々に輸送効率や国際的分業体制などの有利な経済システムから海洋国家の優位が確定していった。海洋戦略家マハン(Alfred Thayer Mahan 1840-1914)は1890年に『海上権力史論』で、商船隊や漁船隊、それを擁護する海軍とその活動を支える港や造船所などをシーパワー(海上権力)と規定し、シーパワーが国家に繁栄と富をもたらし、世界の歴史をコントロールすると論じた(7)。これに対してイギリスの地理学者マッキンダー(Halford Mackinder 1861-1947)は1904年に「歴史の地理的な展開軸(The Geographic Pivot of History)」という題名の講演で、マハンの海上権力論では陸地に関する要素が不充分である。地球は大陸と海洋から成り立ち、その大陸の3分の2を占め、人口の8分の7が住んでいるユーラシア大陸を「世界島(World Island)」、世界島の中央部でシーパワーの力が及ばないユーラシア北部を「ハートランド(Heartland)」と名ずけ、ハートランドの外側に2組の三日月型地帯(Crescent)を設定し、ハートランドの外側にあり海上権力の及ぶ大陸周辺の地域、すなわち西ヨーロッパ、インド、中国などを内側三日月型地帯(Inner Marginal Crescent)、その外方に海を隔てて点在するイギリス、日本、インドネシア、フィリピンなどを外側三日月型地帯(Outer or Insular crescent)と名付けた。そして、近代工業が発達すれば鉄道などによる交通網が発展し、ハートランドに蓄積されたランドパワーがシーパワーを駆逐し、やがてはシーパワーを圧倒するであろう。「東欧を制するものはハーランドを制し、ハーランドを制するものは世界島を制し、世界島を制するものは世界を制する」と主張した。

この理論に対してアメリカの地政学者スパイクマン(Nicholas J.Spykman 1893-1943)は、マッキンダーの理論を発展させ、「リムランド(Rimland)」理論を唱えて出現した。スパイクスマンは世界はランドパーとシーパワーが対立するという単純なものではなく、ハートランドの周辺地帯でランドパワーとシーパワーの接触している地域をリムランドと呼称し、このリムランドに位置する日本やイギリスが政治的軍事的に重要である。

 

 

 

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