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これらの設備基準(ハード要件)は船舶救命設備規則で各設備ごとに数量及び性能が定められているが、脱出設備にかかる基準は船舶設備規程で別途定められている。また、設備の操作を含めた退船作業にかかる船員の責務(ソフト要件)については船員法体系で別途定められている。

しかしながら、これらの基準は、脱出、乗艇、生存といった各目的ごとにそれぞれ必要な機能を有するべきという観点から定められており、災害の発生から退船に至るまでの全体の流れとしての退船システムが妥当な機能を有しているかという総合的な観点からの定量的な有効性の評価がなされていない。一方、SOLAS条約においては、退船システム全体の有効性を評価することの重要性が認識され、完全退船時間の目安を60分として退船システムを評価し、改善していくことが合意されている。

そこで、内航船の救命設備設置基準の見直しにあたり、現在の基準による船舶の退船システム全体の有効性を定量的に評価するため、実船による退船試験を行った。

(a)基本的退船シナリオの作成

実船退船試験に先立ち、上記の救命設備と船員の対処を分析し、標準的な退船時の作業手順及び作業時間を洗い出すことによって、退船部署発令から総員退路までに至る標準的な時間を算出し、基本的退船シナリオを作成した。なお、タイプシップとしては、10,000トンクラスの大型RORO旅客船を想定した。

(b)退船試験

試験は、船内火災による総員退船を想定し、総員退船部署発令から総員退船終了までの一連の船舶の退船シナリオ及びシステムの主な構成要素ごとに要する時聞及び操作状況について、バーコード及びビデオによる計測・観測を行った。また、試験後に参加者に対してアンケートを行った。

 

a.実施日時:平成9年10月20日 午前10:00〜午後1:00

b.使用船舶:内航RORO旅客船(11,872トン、旅客定員514名)

c.試験場所:茨城県大洗港内

d.使用救命設備:

シューター 1台

50人乗り第1種膨脹式救命いかだ  5台

固型救助艇 1台

e.乗客模擬者:高等学校生徒(約350名)

内、退船試験参加は250名

*現在の船舶の退船シナリオにおいては、右舷、左舷で同一の作業が並行して行われるため、片舷のみにモデル化して試験を行った。

f.船員:27名

 

 

 

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