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3.2 「船舶の安全とデザイン思想の見直し」

-船舶の運航と健全性維持におけるヒューマン・インターフェイス-

3.2.1 基本認識

従来、船舶の安全に関する検討といえば、復原性、操縦性、船体強度、緊急時の安全装置等に限定されがちである。確かにこれらは全て安全上重要な要件で、これまでも多くの研究がなされており、それらの要求値の最低限については各種規則により厳しく規定されている。

一方、見方を変えれば、船舶も人間が使う「道具」の一つであり、その「道具」が運航上、人間にとって使い易い「道具」であるかどうか、また構造安全性を維持する上で、検査・点検・補修などの保船がし易い「道具」であるかどうかの視点で、船舶を評価・設計することも又重要と考える。

 

(1)近年の事故の特徴

近年問題になっている船舶の事故の特徴をとらえると、

運航面では

(a)ヒューマンエラーに起因する事故の割合はむしろ増加している、

(b)ヒューマンエラーによる事故は重大事故となる場合が多い(操縦ミスによる座礁事故などはその例)、

構造面では

(c)腐食の進行に起因する船体の折損や外板・隔壁の大規模損傷、

(d)疲労亀裂の進展に起因する小規模損傷の多発、

(e)衝突と座礁による大規模破壊と環境汚染、

等が挙げられる。

 

(2)近年の船舶および運航者の置かれている環境

一方、近年、船舶の運航者及び船舶自体が置かれている環境の特徴としては、

(a)より複雑なシステムの操作、維持を要求されている、

(b)より少ない人員での操船・操作が要求されている、

(c)より経験の少ない乗組員集団での操船を求められている、

(d)船舶の運航スケジュールにより正確さを求められている、

(e)技術革新の停滞により、船舶の老齢化が助長されている、

(f)景気が低迷し海運の競争が激化している、

こと等が挙げられる。

 

(3)問題解決の方向

上記(1)に挙げた事項を「結果」群と呼び、(2)に挙げた事項を「環境」群と呼ぶとすれば「環境」が「結果」の一原因となっていると考えることはさほど不自然ではない。言い方を変えれば、人間の特性を理解しながら、

(a)「環境」を変えるか(環境改善型)

(b)「環境」をそのままに、船舶そのものを変えるか(設計変更型)

(c)「環境」をそのままに、何か補助的な手段を与えるか(補助手段型)のいずれかを試みることが、冒頭に述べた、船舶を使い易い「道具」にするための検討であり、その結果、事故を少なく、かつ小さい規模に止めることが可能になると考える。

造船研究協会主催のSR238にて「新しいフリートサポートシステムの研究」が行われているが、この研究は人間の介在を前提とし、発達する通信手段を駆使し、船上の乗組員が行う各種の作業に対し如何に技術支援が出来るかが試みられている。これは1項で述べた「船舶の安全」向上への補助手段型改善研究の一つである。この研究の中で、船上の「人間」と「機器」の関わり、「人間」と「操作・作業」の関わりをより掘り下げて分析しようとしており、研究の成果が期待される。今後行われるであろう「船舶の安全」の研究の参考になるものと思われる。

このようにこれまで行われてきた研究を見ても、「道具としての船舶の安全性追及」、又は「人間と船舶の接点に関する研究」は必ずしも多く行われたとは言えず、今後積極的に取り組まれて良いテーマであると考える。

 

 

 

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