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病原菌となる微生物と宿主の反応に関するワークショップのまとめ

 

モデレーター:J.L.クレーンビュール博士

 

西暦2000年までにハンセン病を制圧するという目標が、この問題を抱えるすべての国で達成できるかどうかはともかくとして、MDTプログラムは世界的に有病率を大きく低下させるだろう。しかし、今回のワークショップの議長たちには、有病率を根拠としたハンセン病の「制圧」プログラムではなく、感染経路を断ち、長期的に発病率をゼロにするという、完全な根絶をめざすための勧告に問題をしぼってもらった。すなわち、2000年以後のハンセン病における基礎研究について考えてもらったのである。

 

ワークショップに参加したメンバーは、それぞれの専門分野で献身的かつ活発に活動している専門家である。日夜ハンセン病やM.lepraeに取り組んでおり、そこで直面する障害も、また、明解な実験計画の必要性も十分に認識している。研究の障害に対処できる分子生物学という強力な手段が使えることも知っている。彼らはまた、ハンセン病とM.lepraeについて知識が不十分であることにも気づいている。感染のメカニズムがわかっていなければ、どうやって感染を遮断できるだろうか?感染を見抜き、早期に診断することができるだろうか?人間以外に病原体を保有するものが、キャリアとなるものが、環境に存在するのだろうか?M.lepraeはどんな根拠で神経に作用するのろうか?リアクションのメカニズムは何か?リアクションの治療には何を目標にすればよいか?ワクチンは役に立つのか?

 

ワークショップの提唱には、特に驚くようなものはない。他にも専門家が個人で、あるいはグループで、優先順位が多少異なるだけで同じような提言をしてきた。これらの報告の行間から読みとれるのは、できるだけ早く取り組まなければならないという緊迫感である。ハンセン病に対する世界の関心は、じきに薄れてしまうだろう。それは実施が終了したからではなく、MDTプログラムのめざましい成功の結果である。実験は今なお継続中であるが、人間の宿主の病原菌を死滅させる化学療法だけでは、感染路を断つために十分とはいえない。

 

いくつかの目標に取り組まなければならない。まだ手つかずのままの国内、及び国際的なハンセン病プログラムがある。また、ハンセン病の治療や研究を行うセンターは、互いに協力して早期診断、リアクションの早期発見、リアクションに対する免疫抑制薬投与とその評価のために、必要な実験に取り組まなければならない。勧告の中でも重要なのは、進展の状態をどう評価するかという点である。発病率、有病率、「患者の発見」を明確に報告することができれば、世界のハンセン病の現状がゆがめられて伝えられるのを防ぐことができる。

 

これらの提唱は議論を呼ぶものではない。なすべきことは明らかである。明らかでないのは、「誰がそれをするか?」である。この仕事にかかわる研究所に「誰が資金を提供するか?」である。周囲を見回してほしい。この国際会議に参加した科学者は少なくなっているが、提出された論文の抄訳を読んだり、私たちのセッションに参加したり、ポスターを見る限り、中には従来よりはるかに優れた研究をしている科学者がいることがわかる。

これまでとは違う資金源があれば、研究に弾みがつくだろう。先進国では結核の研究が魅力的で、研究者の関心をハンセン病から遠ざけてしまったが、結核の研究は発展途上国の多くのセンターで行われているハンセン病の研究を、目に見える形で支えているのである。この国際会議の目標は、提携関係を作ることにある。私はカービルから来た同僚に、これから5年、10年、いやそれ以上にわたってハンセン病研究を続けていくと思われる献身的な研究者や研究所を、独自の基準で選んでほしいと頼んだ。こうした人々こそ、私たちが協力し、相互に情報や専門知識を分かち合い、世界のハンセン病の将来に取り組みたい相手である。

 

 

 

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