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年間の総雨量は、その年によって大きな差があったものの、少ない年でも1000mm以上、例年2000〜3000mmにも及ぶ多量の降水があったことが明らかとなった。しかも、雨季と乾季との差が明瞭で、降水の大部分が雨季に集中していることが注目された。毎年、我々の調査期間も雨季にあたるが、雨の日が数日続くと水田周辺の小道はもとより、舗装された国道までもが浸水してしまうという状況であった。雨が止んだ後もなお、道路には暫くの間水溜まりが残り、住民が水と接触する機会(すなわち日本住血吸虫に感染する機会が著しく増えることになる。従って、中間宿主貝対策については、ヒトヘの感染が多いと考えられる雨季が始まるのに先立って実施するのが最も望ましいと考えられる。加えて、雨が少ない時期には除草作業を効率良くおこなうことが出来るし、せっかく散布した殺貝剤が流出することによる損失を防ぐことが出来るという利点もある。

 

5. まとめ

 

これまでの調査では、フィリピン・オリエンタルミンドロ州ナウハン湖西岸地域における、日本住血吸虫症の流行状況の把握に重点をおいて、一般住民および小学校児童の血清疫学調査や、各種保虫宿主動物の糞便検査等を実施してきた。その結果、調査地域内には本症が常在していること、とりわけMalaboは高度の浸淫地であること、そのMalaboでは居住地域と中間宿主貝の生息地が近接していることなどを明らかにした。今後は、この地域における本症撲滅活動、およびこれに伴う本症浸淫状況の変化のモニタリングに重点を移してゆく予定である。

その一環として、高度の浸淫地であるMalaboにおいて、中間宿主貝対策を既に試行している。具体的には、貝の生息地域の除草と殺貝剤nicrosamideの散布をおこなっている。

本年度も、新たにガソリン駆動式のグラスカッターを1台供与し、地元のボランティア7名の協力の下で貝コロニーの除草を実施した。図1に示したように、このコロニーは人々が日常頻繁に利用する道路に近接しており、かつてはこの地域における主要な感染源の1つであったが、1997年から開始した精力的な除草活動が効を奏して、コロニーの1つ(※1)は既に水田に置き換わっていた。
さらに、今年度の除草作業によって、残っていたもう1つのコロニー(※2)も完全に除草を終えることが出来た。中間宿主貝の調査でも、貝の生息地域および生息数が着実に減少していることから、今後は終宿主の感染率も低下していくことが期待される。不完全な対策では、一時的には中間宿主貝の生息数を減らすことが出来ても、やがて中間宿主貝の再発生を許す可能性が高いことから、充分な量の殺貝剤を散布して万全を期すことが望ましいが、たいへん優れた効果を示す殺貝剤nicrosamideは極めて高価であるために、散布出来る地域と量がかなり制限されているのが現状である。

日本住血吸虫症のコントロール対策の対象は、中間宿主貝と終宿主とに大別され、後者は更にヒトと、ヒト以外の哺乳動物に分けることが出来る。どの対象に対して、どのような対策を講ずれば、労力や費用の面で最も効率良く本症をコントロール出来るかを明らかにすれば、日本住血吸虫症コントロール対策のモデルケースとして、その有用性は計り知れない。特に、直接処置を施すことが困難な保虫宿主動物の感染状況が、ヒトの感染率や中間宿主貝の生息状況の変化と共にどのように推移してゆくかという点は、人獣共通寄生虫症である本症の撲滅を目指すうえで非常に重要であり、今後とも調査を継続してゆきたい。

 

 

 

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