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周波数が偏よるなどの短所もあります。幼児では睡眠導入をして検査を行い、刺激音は通常、クリック音を用います。クリック音の周波数成分は高音に偏しているため、得られる反応も高音域を中心とした聴力を反映します。またイヤホンからの出力の限界から、検査できる最大音は100から105dBHLであり、また聴性行動観察で測定された闘値との間には一般に10から20dB程度の誤差があります。出力の限界と行動観察から得られる聴力との誤差を考慮すると100dB付近と110から120dB領域の難聴はABRでは必ずしも区別できません。人工内耳の適応対象となる重度難聴児のクリック音刺激によるABRでは最大音で反応がない事も希でありませんが、この様な場合でも上記の理由から500Hz以下の低音域に聴力が残存している可能性があります。ABRのもう一つの留意点は発達の影響です。精神発達遅滞や自閉症ではABRの波形や潜時に異常をきたす頻度が高いとされています。

(2)発達および言語能力検査

聴力と音声による言語発達との間には密接な関連があります。そのため、人工内耳の適応決定に際しては、息児の聴力の正確な測定のほか、その発達が難聴によってどのような影響を受けているか、現在の精神、身体的な発達がどの程度かを知っておく必要があります。

幼児で主に行われる発達検査には津守稲毛式精神発達質問紙(1歳〜3歳)、新版K式発達検査(0歳〜14歳)、WPPSI知能診断検査(3歳10カ月〜7歳)および自由遊び場面での行動観察などがあります。

津守稲毛式発達質問紙は、主に粗大な運動発達をみる「運動」、認知や知的な活動を調べる「探索・操作」、大人や他の子供との関わりをみる「社会」、日常生活の基本的な習慣をみる「食事」「排泄」「生活習慣」、そして言葉の理解や発話状況を調べる「理解」「言語」の各項目から構成されています。難聴児では「運動」の項目に遅れがなく、「社会」「理解・言語」が6ヶ月以上遅れ、他の「探索・操作」や「食事」「排泄」「生活習慣」にも若干の遅れがみられるプロフィールが一般的です。高度難聴児の場合、希に精神発達遅滞がないのに合併する平衡障害から始歩や両足をそろえて跳ぶなどの「運動」項目に遅れがみられることがあります。また、難聴に関連して対人関係がうまく育っていない場合、「食事」「排泄」「生活習慣」の遅れや相手の目を見ないなどの行動上の問題を生じることもあります。

新版K式発達検査は、運動機構の成熟を見る「姿勢・運動」と、認知的な発達と意図的操作を見る「認知・適応」、言語の発達と社会性について調べる「言語・社会」の3つの分野で構成されています。難聴児の場合、対人関係がうまく育っていれば0歳台では「言語・社会」の項目に遅れは見られません。特に、聴力闘値が80dB以下で自分の声がモニターできる場合は発声行動も盛んに見られます。しかし時間経過とともに「言語・社会」の遅れが顕在化し、特に人工内耳の適応となるような高度難聴児でこの傾向が著しくなります。しかし音声言語の発達と切り離して調べる事ができる再認知・適応」はあまり難聴に影響されません。ただし難聴によって対人関係が遅れている場合には、検者の行動を模倣する項目(2歳を超える課題)が満たせず、「認知・適応」においても本来の知的能力より低い成績となります。

自由遊戯場面での行動観察では遊びの内容と相手の目を合わせて関わりをもつアイコンタクトを中心に対人関係を見ます。例えば「ままごと遊び」では道具を使って実際にはないものをあるかの様に行動する象徴化が見られますが、この象徴化が単発で終わるか、連鎖的に行われるかによって、患児の内的言語の発達を知る事ができます。また大人との遊

 

 

 

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