日本財団 図書館


【補聴器装用は聞こえのリハビリテーション】

一定期間試聴して再来院された場合、まず、耳を診察し、聴力検査をします。補聴器装用による耳への影響をチェックするためです。補聴器の効果に関して本人が十分満足している場合は、これで決定です。本人が満足していないときは、アンケートの結果を参考にして、補聴器を更に細かく調整し、場合によっては別の補聴器に変更します。そして再調整した補聴器を装用して検査を行い、前回の試聴補聴器装用時の結果と比較検討します。そして、この再調整した補聴器をさらに試聴してもらいます。このように少しでも補聴器を耳に合わせるため、場合によっては数回にわたって試聴してもらい、最終的に本人や家族の者が納得した形で補聴器を決定します。

補聴器が決定すれば本人の役割が終わったわけではありません。補聴器を装用している難聴高齢者にとって大切なことは定期的なフォローです。これには聴力管理と補聴器管理とがあります。補聴器を使用しているときに聞こえが悪くなった場合には、補聴器が故障している場合と、聴力が悪化している場合とがあるからです。前述のごとく補聴器は高齢者にとって、聞こえのリハビリテーションなのです。

 

【大切な家族の協力】

高齢者の難聴の特徴は言葉の聞き取りの悪さです。補聴器フィッティングを成功させるには、言葉の聞き取りを如何に良くするかが大きな課題です。そのために前述のような多くの検査が必要なのです。しかし、聞き取りを良くするのには限界があります。そこで大切なのが家族の協力です。その為、本院では高齢者の補聴器をフィッティングする際には、原則として家族の方、それも出来るだけ高齢者と接する時間の長い親しい家族に一緒に来院してもらいます。家族の方に、聞こえの悪い高齢者にどのように話をしたらよいのかを、理解してもらうことが大切です。難聴高齢者は、補聴器を付けても若いときと同じように聞こえるわけではありません。たとえて言うと、素人がマイクロホンの扱いが下手なままカセットテープなどで録音した会話を聞いているようなものです。話している人がマイクから離れているときは、周囲の人々の声や,回りの雑音がざわざわしていて話している人の声がほとんど分かりません。補聴器を装用している人と会話をするときには、遠くから話しかけたり、後ろから喋ったりしないようにして、正面からはっきりと口を開けてゆっくりと喋る、むやみに大きな声で言わない、同時に数人で話しかけないなどは最低知ってほしいものです。

 

【要介護難聴高齢者の補聴援助】

高齢者の中には、脳血管障害や、整形外科的疾患のため、あるいは痴呆症のために、老人保健施設や在宅で介護を受けておられる方もおられます。大阪府下の老人保健施設入所者591名における調査結果(楢村 Audiology Jap 1977)によりますと、入所者の約半数は自覚的に聞こえに不自由を感じておられますが、補聴器装用者は42名で、そのうち常時装用者は37名にすぎません。多くの高齢者は、「静かな部屋で普通の会話を聞き取るのが困難」とか「他人が聞き取れる音量でテレビやラジオを聞き取れない」など日常生活において聞こえの不自由を自覚しているのに、高齢者本人も介護している周囲の人も、聞こえにくいのは、加齢現象だからとあきらめてしまっており、問題意識が生じていないことが指摘されています。難聴があるとコミュニケーションが取りにくいので、日常生活に不自由するだけでなく、医療や介護に必要

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION