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 これらのことから、本研究の上位群と下位群の技能水準の差は、体力水準との関係が深く、さらに体力水準の差は形態(特に皮 下脂肪厚)との関係が強いと考えられる。もちろん、サッカーではボールをうまくコントロールするというサイバネティックス系 の体力要素も非常に重要であることはいうまでもないが、筋力、敏捷性、スピード持久力、全身持久力に優れているために、ボール ・コントロールのことも考えながら体力的に余裕を持って日常の練習をこなすことができると捉えることも考えられる。逆にい えば、体力的に余裕を持って練習に取り組むことができない生徒は、ボール・コントロールのことを考える余裕もなく、結果的に はサッカーの技能もなかなか向上しないと捉えることができる。
 練習中の運動量をみると、M中学校では、レギュラー、非レギュラーを問わず全員が同じ練習を行っていたこともあり、上位群と 下位群の間に差はみられなかった(図2)。しかし、グループの平均値ではなく個人値を重視して、運動量と形態および体力の関係を みると多くの項目で有意な相関がみられた(図4)。このことから、日常の練習で皆が同じことを行っていても、個人個人で運動量が 異なり、このことが結果として体力水準の差となって現れると考えることができる。ただし、石河の指摘10)にもあるように、上位 群は下位群よりも低い年齢でサッカーを始めていたので、中学入学以前にすでに体力水準の差がついていたのかもしれない。し たがって、「たくさん動いているから体力水準が高い」のではなく、「体力水準が高いからたくさん動くことができる」のではな いかということも考えられ、この点に関しては追跡調査が必要である。
 ただ、練習中の運動強度をみると(表4)、平均値でおよそ45%Vo2max、最高値でおよそ80%Vo2maxであり、中学生にとってそれほど 「きつい」運動とは思えないので、「体力水準が低いためにはたくさん動くことができない」とは考えられない。したがって、運 動量に顕著な差が出るのは、ボール・コントロールが重要となるゲーム形式の練習であると推察され、サッカーの技能水準が高 いほど運動量が多くなり、結果として体力が向上すると考えることができる。実際にゲーム形式の練習を行っているときの運動 量をみると(図3)、上位群の値は下位群よりも有意に大きかった。また、練習全体のエネルギー消費量よりもゲーム形式の練習中の エネルギー消費量の方が体力測定結果との相関関係が強かったという結果(表5)は、このことを裏付けるものと考えられる。以上 のことから、全員が同じ内容の練習を行うような場合は、技能水準が高い者の方が低い者よりも運動量が大きく、結果として両者 の体力水準の差を広げる傾向にあることが示唆された。
 以上をまとめると、中学校サッカー部員の体力水準は日常の練習における運動量との関係が深く、運動量の多少はサッカーの 技能水準に負うところが大きいことが示唆された。したがって、部員全員が同じ内容の練習を行っている場合、技能水準の高い者 ほど体力が向上する可能性が高く、技能水準が低い者との体力の差がますます広がることが予想される。視点を変えれば,このこ とは学校体育においてサッカーを教材とするときに、チームの編成の仕方によって子どもたちの運動量が大きく変わることを 示唆している。


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