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 論  議
 定期的な身体活動が子どもたちの体力水準を向上させるということは、これまでの研究1,4,11,12,14)から明らかである. しかし、成人について示された7,28)ように、筋力や持久力を向上させるための刺激としてどの程度のトレーニングが適切であ るのかということについてはまだ明確な結論が出ていない。適切なトレーニングの強度および量を決定することが難しい原因 の1つとして、子どもでは同一暦年齢でも生理的な発達の度合いが個人々々で異なっているということが考えられる。骨年齢を基 準としてトレーニング効果を検討した研究5,25,32)もみられるが、X線を使用するとなると現実的には難しいことが多い。また、身 長の年間発育量の最大値を基準にするという方法15,26)もあるが、男子の場合少なくとも小学生から高校生くらいまでの期間 縦断的に追跡しなければならないため、時間と手間がかかり、多くのサンプル数を得ることが難しい。
 したがって現時点では、子どもたちが日ごろ行っている運動がどの程度の強度および量であるのかを把握して、それが体力水 準とどのような関係にあるのかを明らかにすることが現実的であり、かつ重要であると考えられる。このような観点から、本研究 では中学生サッカー部員を対象として練習中の運動強度および運動量を測定し、体力との関係を検討した。
 本研究で得られた練習中のエネルギー消費量はおよそ550kcalであり、1時間あたりにするとおよそ300kcalであった。この値は、 星川たち8)が報告した349.3±84.7kcalと同程度の値であった。また、平均の運動強度をみても、本研究の値がおよそ45%Vo2maxで、 星川たちの報告がおよそ40%Vo2maxであり、同様の値であった。一般的な公立中学校のサッカー部の練習がこの程度の運動強度 および運動量であるとすると、次に問題となるのは、部活動での運動が生徒たちの体力におよぼす影響である。
 練習中の運動強度と体力の関係(表4)についてみると、いくつかの項目で有意な相関がみられ、中でも%Vo2maxの最高値と皮下 脂肪厚および往復走の相関係数が高かった。サッカーでは、方向を変えながら全力走を行う場面が頻繁にみられるので、それに対 応するためには体脂肪量が少なく、高い強度に耐えることのできる身体が必要であると解釈できる。しかし、全体的に体力との相 関は,運動強度よりも運動量との方が高かった(表5および図4)。このことは、部員全員が同じ内容の練習を行っている場合、運動強 度よりも運動量がより体力の向上に影響をおよぼしているということを示唆している。
 被検者をサッカーの技能水準からみて上位群と下位群に分けて形態を比較したところ、上位群の方が身長が大きく、皮下脂肪 厚が少ないという結果であった(表1)。被検者が中学生であるので、年齢が高いほうが当然身長も大きいと考えられるが、上位群と 下位群の間に年齢の差はなかった、体力については、総体的に上位群の方が成績は良く、往復走および全身反応時間では有意差が みられた(表2)。発育期においては、一般的に身長が高い者の方が体力・運動能力が高い6)という報告があるが、本研究では、日ご ろ同じように運動を行っている生徒の間でも同様のことがみられた。また小野たち23)は、男子中学生を皮下脂肪厚を基準として 小・中・大の3群に分にけて体力との関係を検討したところ、中群の体力水準が最も高く、大群の水準が最も低いと報告したが、 本研究の結果も同様の傾向にあったと解釈できる。



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