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?.「ピースハウス家族の会」の見学印象報告

 訪問個所は全12カ所,うちホスピス3カ所,病院・音楽療法等が9カ所であった。音楽療法はまだ日本では馴染みがないが,ドイツ・スイスでは,ルドルフ・シュタイナーの人智学に基づいた芸術療法の一つとして用いられている。小さなドイツの町では日本人の音楽療法士,多田房代さんとの出会いがあり,多田夫妻の広大な領有地内の牧草地や麦畑を散策し森の中の空間で瞑想し,風を感じた後,「音楽が自分を引き出してくれること」をお聞きした。用意された曲を一方通行的に聞かせるのではなく,ピアノやリズム楽器などさまざまな楽器や声によって患者と対話して症状を緩和し治療をするやり方を楽器や治療中のテープ等で,説明していただいた。イメージしていた音楽療法とは大きく異なったものであった。

 他の音楽療法士の方からは言葉を使わずに,音の世界から音がやってきては戻る(去る)ことを理解して,人間も同様にいずれは去ってしまうけれど,安心して向こうの世界に戻るのだから行かせてあげるようにすること,特にライヤーという楽器の弦のやわらかい響きでお手伝いができることなどお聞きし,たいへん貴重な体験をさせていただいた。

 ドイツでは在宅看護をベースにホスピス活動が行われ,施設としてのホスピスは少ないようである。はじめに見学したのは,ドイツの住宅街にある8床の「フランチスクス・ホスピス」でシュタイナーのよい所を取り入れ,至る所で優しさを感じる明るくきれいな施設であった。修道院のような建物で入り口の扉はいつも開いたままで,中庭のヴァッサー=水(ここでは生命の象徴)が湧き出ていて優しい光に包まれる中,ヤッハマン氏から説明を伺った。いろいろな意味を持つ内装が印象深く8床という小さなホスピスのきめ細かさに驚いた。部屋はシンプルで,家具やカーペット,絵など自宅と同じように飾れるそうで,入院というよりは入居に近い。洗面台が上下に動かせるようになっており,最後までどんな姿勢でも「できる,できた」に繋がる前向きなアイデアだと思った。食事はその方の食べたいものを伺ってから買物に行き作るとのことであった。

 2カ所目は,スイス・バーゼルから少し離れたアーレスハイムにある13床の「ホスピス・イムパーク」で,英国のセント・クリストファーズ・ホスピスを見学されてから私財を寄付して建てたものだそうである。古い家と新しい建物とが違和感なく繋がっており,バスルームからの眺めはまさにスイスの美しい丘陵を見下ろす一枚の絵画を見ているようであった。ここでは専属のセラピストはいないが近くのルーカス・クリニックから実費でお呼びできるということであった。家族の方たちへのケアは月一回の礼拝のような会や手紙,電話を13ヵ月間されるとのことであった。見学終了後,広い庭の大きな栗の下で心温まる,洗練された素敵なティータイムを過ごさせていただいた。

 3カ所目は,スイス初のホスピスで「フォンダンオン・リヴヌーヴ」というレマン湖の畔のシオン城が見える小高い丘のブドウ畑の中にある8床のホスピスである。設立のため尽力された館長のペック夫人の明るいお人柄が表れるお話で館内を小人数に分けてご案内いただいた。車椅子で庭の斜面を降りられる機械がついていたり,患者さんがお花を活けていたり,犬2匹,ネコ1匹がご挨拶しに来たり大変なごやかな家庭的なムードであった。ここでは全員で食事をし,誕生日やクリスマスをみんなでお祝いをする。「それが人生」そのものだから…と言われたのが心に残った。エンジェルのお部屋(安置室=礼拝室)には十字架,マリア様,ユダヤ教のローソク立て,お線香があり,すべての宗教の方を受け入れている感じが素晴らしいと思った。

 どのホスピスでも,医療現場で患者を手離す段階の遅れから,ホスピスに入る時期が遅すぎ,ホスピスで過ごす期間が短くなると言われていた。3カ所ともに入所された方たちの記念帳が置いてあり,想い出の文や写真等が貼られていて誰でも見られるようにしてあった。

 今回のツアーを通して感じたことは,ドクターやボランティアの方たちがとても親切,謙虚で,無理をしていないよい感じで,もし自分が患者の一人だとしても声をかけていただいたら心休まるような方たちばかりだったことである。そして今生きている私たちが親しんだり,思い出となることが多ければ多いほど,どこかで「癒し」のきっかけになるので,いろいろ興味を持ち明るく前向きに暮らすことがよいのではないかということをこの旅で出会った方々から学んだ。

報告:佐保田美紀

 

 

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