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 Eさんは,36歳で乳がんの転移のために最近亡くなられました。彼女は聖路加国際病院の看護婦さんでしたが,開業している医師と結婚して2人の男の子をもうけました。ところが35歳のときに乳がんの手術をしたのですが,再発して肝臓にもがんが広がって急速に容体が悪くなりました。私たちのホスピス,ピースハウスにも2回入院されました。一つは症状の緩和が目的でしたが,もう一つにはピースハウスにいる間に2人の子供に残す言葉を整理するためでした。そして7つと9つの子供にそれぞれが20歳になるまで,誕生日ごとにママのメッセージを読んでほしいといって,7歳の息子には13通の,9歳の息子には11通の手紙を轟き残しました。それぞれが20歳になったときに読む最後の手紙には「あなたはもう大人になったのだから,あなたの意思と判断で自立して勇気をもって生きなさい」というメッセージを書かれたようです。
 全部封がしてありましたが,そのうちの一つだけ糊がうまくついてなくて少しあいていたので,ご主人とこっそり見てみました。それは16歳になった子供を想定して書かれたものでしたが,「あなたは16歳になった。あなたはもう女の友達ができる年齢になった。女性との交際にあなたが注意しなくてはならないことはこうです」というような性教育のことまで書いている。そして別のノートに書き残されていた子供へのメッセージには,「お父さんには新しいお母さんがくると思うけど,私にもったのと同じような気持ちでそのお母さんをあなたたちのお母さんとして迎えてあげてください」とありました。
 これだけの心の準備をしながら,この患者さんは静かに家で死んでいったのです。枕元にはEさんのお父さん,ご主人,そして2人の息子たちがずっと見守っていました。

 

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