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 16世紀のフランスの外科医,アンブロアーズ・パレは次の言葉を残しています。

  時には癒せる,
  和らげることはしばしばできる,
  慰めばいつも与えることができる

 皆さんの中には高血圧や糖尿病といったような生活習慣病にかかっておられる方も多いのではないかと思いますが,たとえば糖尿病になってしまうと治すことはできません。動脈硬化も治すことはできない,高血圧も治すことができない。ただ,血圧をコントロールして脳出血を起こさないように薬で抑えるだけで,治癒には至らないのです。動脈硬化でも心臓病でも,あるいは慢性の呼吸不全でも,それは少しずつ悪くなっても,よくなることはない。悪くなるのを少し遅れさせ,長く延ばすだけであって,そしていつも悪い方向にいっているわけですが,治るということがない。ですから,パレは,「医師は病気の処置しかすることができない」と言っているわけです。
 しかし,痛いとか苦しい,眠れないといった患者の訴えに対しては,鎮痛剤やモルヒネ,睡眠剤というような薬で症状を軽くすることはできます。
 ホスピスというところは,がんを治してしまうことはできないけれども,がんをもちながらも苦しみを軽減させれば,ものを考えたり感じたり話をすることができるようにもなりますから,その人が生きているその最後の日まで,人の愛情が感じられ,自分の気持ちを表すことができるのです。人間はものを考えることができる存在であるという特権を最後の最後まで保持できるようにするのがホスピスの非常に大きな目的なのです。

 

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