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知的障害者福祉研究報告書
平成7年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


知的障害者福祉に関する活動案

おとなのくらし

[2]全日本精神薄弱者育成会『手をつなぐ」1993年3月号

続・障害の重い人のデイセンターを考える
デイセンター山びこ
柴田洋弥

一月号では、重い障害をもつ人のためにデイセンター(通所活動施設)の制度をつくる必要があること、そのデイセンターについては、さまざまな障害をもつ人たちが混合利用すること、毎日通所できること、人生の最も豊かである成人期をずっと通して利用できること、一人ひとりの社会参加や自己実現を「援助する」ことが目的であり、指導や訓練はその一部にすぎないことなどについて、述べました。
そこで今月号では、このようなデイセンターの具体的な内容について、提案します。
デイセンターで各利用者が行う活動は、概ね?@作業活動、?A生活活動、?B文化活動、?C健康活動の分野に分けられます。
?@作業活動の目的は、授産施設のように生産によって社会参加することだけでなく、達成感を味わい生活にリズムをつけることや、物との関わりを通して利用者と援助者のコミュニケーションを図ることなど、一人ひとりの適所利用者の状況によって異なります。作条種目も、企業の下請け加工や市からの公園掃除受託や手工芸品・農産物の自主生産などの授産的作業の他に、「さをり織り」や陶芸のオブシェ作品のような創作的作業、ビーズ通しのような練習的な作業などの中から、その利用者が「できる作業」ではなく「できて、したい作業」を選びます。知的に重度の人ほど工賃は理解せず、作業そのものの楽しさを味わいます。また一時間続ける人や、三分間で終わる人など、その人に合わせて作業の継続時間も調整しよす。出来高払いの工賃を払って
も良いし、また人によっては作楽がなくてもかまいません。
?A生活活動は、クッキング・買い物・乗り物利用など日常生活や社会生活を広げ、なるべく主体的に行うことや、重度障害の人が更衣・食事・排泄などの基本的生活に十分に時間をかけて行うことなどを含みます。?B文化活動は、音楽・リトミック・カラオケ・絵画・劇作・陶芸など、心を豊かにする活動です。?C健康活動は、ジョギング・散歩・本泳・各種スポーツなどの他、理学療法士によるリハビリなど、体を文夫にする活動です。
これらの活動はなるべく利用者が選択できるようにします。選択の意思表示が明確でない場合には、一人ひとりに最も合った活動内容を職員が選び個別の活動プログラムを作りよす。施設が予め決めたプログラムに利用者を適応させるのではなく、利用者に合わせてプログラムを作り、利用者が自ら楽しんで、生き生きと活動できることが大切です。同じ時間帯に同じ部屋で利用者一人ひとりが別々の活動を行うことがあってもよいのです。
また、これらのさまざまな活動は、なるべく地域社会に参加するようにして行います。例えば企業や市役所に出かけて作業を行うとか、プールや体育館・公民館などに出かけて文化活動・健康活動を行う、町のカラオケボックスや喫茶店に行くなどの工夫をします。
デイセンターは、このように活動内容が多様であるだけでなく、重度知的障害や自閉症を併せもつ人が多いため、援助の仕方についても従来とはかなり異なってきます。
○利用者一人ひとりがより良く社会参加し自己実現することが援助の目標であって、集団はそのための方法です。集団に適応できないときに「わがまま」と評価して責任を利用者に押しつけるのではなく、その利用者にとって興味がある活動を通して徐々に集団適応性を高めるような援助者の努力が必要です。重度知的障害者が参加しやすい集団の規模はそう大きくありません。部屋を区切ったり、複数の活動内容を同時に行ったりして小人数活動の工夫をします。また、障害や状態のかなり違う人たちが同じグループで活動できれば良いのですが、「みんな一緒に」「みんなで楽しく」ということはかなり難しいことなのです。利用者の年齢が若い集団ではなおさらです。そんなときは障害や状態別に分かれて活動し、それに合わせてきめ細かく援助すること
も必要です。
○利用者一人ひとりの理解の仕方に応じて、絵カードや文字カードを使ったり、現物を見せたり、簡単な手話や身ぶりを交えるなど、分かりやすく伝えます。その利用者だけに伝えるときは、職員がその人の近くに行き、同じ目の高さで(ときにはやや下から)目を見て話しかけます。遠くからの職員の大きな声かけは、多くの利用者を不安にさせます。また利用者の意思をその表情や行動から読み取る感受性も、職員の大事な資質です。
○どのような重い障害をもっていても、自己決定は尊重されるべきです。そのためには、活動の場や職員に対して、絶対的な安心感と信頼感をもてることが重要です。また形式的にではなく、その人の障害や状態に応じて自己決定を援助します。例えば見通しをもてないときに激しいパニックに陥る人には、入所当初の自由時間が不安と恐怖の原因になるので、遊び時間の過ごし方も伝え、場に慣れるに従い自由に選べる範囲を広げるようにします。
○利用者の短所ではなく、長所・良い点に注目して援助します。どの人もみなすばらしい面をもっており、それがもっと光り輝くように援助します。

このような援助方法は、現在の各種通所施設の中でもかなり取り入れることができます。しかし、職員数や施設構造などに制限がある施設が多く、障害の重い人のためのデイセンター制度を国の制度として新しくつくることが必要です。そのために私たちは今何をすべきか、真剣に考えてみましょう。


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