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知的障害者福祉研究報告書
平成7年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


知的障害者福祉に関する活動案

重度障害者通所活動施設の現状と制度化への取り組み

(1) 重度障害者の通所施設の現状
1995.6.19 柴田洋弥

学校教育終了後も、重い障害をもつわが子が入所施設ではなく地域社会の中で可能な限り普通の生活が送れるよう、通所施設に家庭から通わせたいと願う親が最近確実に増えている。重度知的障害をもつだけでなく、重度身体障害を併わせもったり、自閉症を併わせもって強い行動障害をおこしやすい人についても、同様である。特に、養護学校高等部が重度障害児を受入れ、しかも寄宿制ではなく自宅から通う通学制になっている地域で、この傾向が著しい。
どんなに重い障害をもっていても、地域社会の大切な一員として迎えられ暮らしていける、そういう社会こそがノーマリゼーションの目標であり、学校卒業後に通える通所施設をと望む家族の要望は当然のことである。しかしわが国の現実では、重度の障害をもつ人が地域社会で暮らし続けることを支える援助システムはあまりにも貧しい。特に、地域生活の核となる通所活動施投については、国の制度は皆無である。
そこで、本来は別の目的をもって作られた施投制度を活用して、重度障害者の適所を受け入れる事例が増えてきた。
その最も代表的な制度が、精神薄弱者通所更生施投である。これは本来は障害の軽い人の就労訓練を目的とする制度であるが、現在そのような目的で運営されている施設は極めて少ない。1993年度で約200施設あり約7000人の通所利用があった。その内、約半数の施設は利用者の90%以上が重度障害者(重度判定療育手帳または1〜2級の身体障害手帳所持者)であり、さらに重度重複障害者(重度判定療育手帳と1〜2級の身体障害手帳の両方所持者)が利用者の18%を占めるという極めて高い重度化傾向を示している。また、重度者が70%〜90%の施設が約4分の1ある。残りの約4分の1の施設は重度者が70%未満で授産的な施設である(平成5年度日本精神薄弱者愛護協会通所更生施設部会調査)。いずれにせよ通所更生施設は、現在では重度障害者を最も多く受け入れている法内施設である。しかし、国の基準には重度者を受け入れるための職員配置がなく、地方自治体からの補助が少ない地域では施設運営が極めて困難なため、障害の状態に応じたきめ細かい援助を行なえず苦慮している施設が多い。
また通所授産施設の中にも重度者が増えており、特に身体障害者の福祉制度には通所更生施設がないため、通所利用者の大半を重度重複障害者が占める通所授産施設が最近増える傾向にある。この場合も、通所更生施設と同じ困難に直面している。
精神薄弱者デイサービス事業と身体障害者デイサービス事業も重度障害者を受け入れているが、現在は毎週2日程度の通所利用を前提とした運営費しかなく、また提供されるサービスも限られている。毎日の活動を希望する青年期・成人期の重度障害者には極めて不十分な制度であり、まだ重度知的障害者の利用も少ない。
重症心身障害児通園モデル事業は、かなり医療の必要な重症心身障害者(成人)でも家庭から通所施被に通う形で地域生活が可能であることを認めた画期的な制度だが、まだモデル的試行の段階であり、普及していない。
国の制度がこのように極めて遅れているため、県や市などの地方自治体が通所更生施設などに多額の補助をして重度障害者に対応したり、国の制度によらず、自治体独自の重度者通所施設を作る例が増えている。例えば、東京都や都内11区が設置している心身障害者生活実習所は、重度障害(重度知的障害または重度身体障害)者を対象とし、直接援助職員と利用者数の比率も3対1〜2対1とかなり充実している。しかし、このように重度者に対応している地域は、南関東・東海・近畿地方の、しかもさらに限られた地強にすぎない。
このような国制度・地方自治体制度のない多くの地域では、重度障害者はさらに運営の困難な小規模作業所に通所していたり、また全く通所先がなく日中から在宅していたり、やむなく入所施設に入ったりしている。

(2) 重度障害者通所活動施設(デイセンター)制度の確立に向けて

通所施設制度がこのように未成熟では、重度障害者が地域で暮らすことはでぎない。そこで、新しい通所施設制度の確立を求める動きが始まった。
1992年厚生省「授産施設制度の在り方検討委員会」は、現行の通所授産施設を、
?@ 就労を重視し高い工賃をめざす福祉工場
?A 訓練と福祉的就労の機会をあわせもつ授産施設
?B 社会参加・生きがいを重視し創作・軽作業を行うデイサービス機能をもつ施設
の3種類に分けて整備し、さらに障害種別間の混合利用を進めようと提言した。日本精神薄弱者愛護協会通所更生施設部会でも、重度化している大半の通所更生施設を?Bの施設に含め、この新しい通所施設制度の確立を求める方向で運動を進めることとなった。
このような経過を受けて、94年より心身協(心身障害児者団体連絡協議会)は、毎年行う「心身障害者地域生活支援システム研究会議」のテーマを当面「重度障害者のデイセンターについて」とし、政策提言までまとめるべく研究を連めることとなった。ここでは「重度障害」を精神障害や中途知的障害など社会的重度の障害を含めて広くとらえる事としている。
また、95年4月には全社協(全国社会福祉協議会)に「障害者地域生活支援に関する調査研究委員会」が設置された。この委員会は、重度障害者が地域社会の中で可能な限り通常の生活が送れるシステム確立のための研究を行い、障害者基本法施行制定により今後進められる「市町村障害者計画」にモデル計画の提言を行うことを目的としているが、初年度には重度障害者通所活動施設(デイセンター)の検討が予定されている。
一方、実際に重度障害者が通っている各種の通所施設の施設長や主任指導員などを対象として、「障害者通所活動施設リーダー職員研修会」が94年より毎年1回開催されている。主催は関東地区精神薄弱者愛護協会通所活動施設部会だが、全国の施設から参加がある。この研修会は、重度障害者が通所している活動施設の相互理解押と、重度障害者の地域生活を支える通所施設の在り方や援助内容を研究することをめざしている。
このように、関係者の熱意により、重度障害者通所活動施設(デイセンター)の制度化とその援助内容の具体化に向て1994年より研究・研修が急進展しており、実際に国の制度として結実するまではなお時日を要すると思われるが、今後に明るい期待がもてそうである。

(3) 重度障害者通所活動施設(デイセンター)の概要

これらの各研究の中で、次のような諸点については、もちろんまだ研究中なので今後改められることもあり得るが、関係者の間ではほぼ合意が得られていると言えよう。
1) 多様な障害に対応
重度知的障害・重度身体障害・重症心身障害・精神障害・その他脳血管障害など社会的重度の障害など、多様な障害者を理的する制度とする。ただし、障害の種別によって活動内容や援助方法が異なる場合が多いので、一つの施設内でユニットや小グループに分けたり、対象を絞った施設を複数作るなどの運営方法をとり、どの様な重度障害者でも短時間で通える範囲に施設を配置する。また、一人ひとり状態もかなり異なるので、個別にあった援助を行う。
2) 就労に代わる日中活動の場
一般就労や授産施設での作業の困難な重度障害者が就労に代わる活動を行う。したがって、訓練・指導・治療・教育を目的とする通過施設ではなく、成人期を通じて自己実現や社会参加などを援助する長期利用施設であり、可能な限り自己決定が尊重される。ただし利用者の状態により、授産施設など他の施設に移ってもよい。活動の内容は多様であるが、その中に収益のある作業が含まれる時は出来高払いの工賃を支給する。また、1週につき5日間、1日6時間程度は通所利用ができるが、他の社会資源を利用したり健康など個別の事情により通所時間や通所日数を減らすことはできる。
3) 日中の生活の場
昼食サービスや送迎サービス、健康維持のためのリハビリテーション、入浴サービスなど、生活面でのサービスも行う。
4) 十分な運営費
多様な障害に対応し、多様な援助を行える十分な援助職員配置と空間・設備が保障され、必要に応じて医療関連の専門職員や心理職員・技術職員が配置されること。
5) 地域の状況に応じた運営
過疎地域では高齢者通所施設や他の施設との連携が図れるように、施設設置・運営に柔軟性をもたせること。
6) 制度の再編成
新しい通所活動施設制度の創設により、従来の様々な制度を整理・統合し再編成する。
7) 総合的な地域生活支援制度の確立
適所施設のみでなく、一緒に暮らす家族への支援や、障害者が親元から独立して暮らせるためのグループホームなど、重度の障害をもっていても地域社会で暮らし続けることのできるように、総合的な地域生活支援制度を確立する。

(4) 通所活動施設の援助内容・活動

(別紙「手をつなぐ」3月号原稿を参照)


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