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知的障害者福祉研究報告書
平成7年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


知的障害者福祉に関する活動案

おとなのくらし

[1]全日本精神薄弱者育成会『手をつなぐ』1993年1月号

障害の重い人のデイセンターを考える
デイセンター山びこ
柴田洋弥

養護学技卒業後もわが子が地域社会の中で可能な限り普通の生活が送れるように、と願うのは、親にとってごく自然な思いではないでしょうか。でも、重い知的障害をもつ人にとっては、地域社会の中で暮らし続けることは容易ではありません。
緊急一時保護や親の休養のためのレスパイトサービス、自立のためのグループホーム、移動のためのガイドヘルパーなど、地域生活のために必要であるにもかかわらず整備されていない制度は、数え上げればきりがありません。欧米では町から離れた入所施設を縮小して重い障害をもつ人のためのグループホームを増やし、地域生活がどんどん広がっているというのに、わが国では親が倒れたら入所施設しかありません。ノーマリゼーションの光は、障害の重い人にはまだほとんど及んでいないのです。
でも日中の活動の場については、地域生活を支える拠点として「デイセンター」(通所活動施設)の法制度化を求める動きが始まりました(「手をつなぐ」九四年一一月号に紹介されています)。ようやくトンネルの先に明かりが見え始めたようです。
では、どのようなデイセンターをつくればいいのでしょうか。私の勤務する「デイセンター山びこ」(法的には精神薄弱者通所更生施設)は、地域の親の会の長い間の運動が実って一九九三年六月に開設され、武蔵野市(東京都)の多大な補助を得て運営されています。そこでの経験からデイセンターのあり方をまとめてみましょう。

○武蔵野市では、言葉がなく自閉症と重度知的障害を併せもつ人でも、集団での動きに参加でき継続して作業を行うことのできる人は通所授産施設に通っています。また人によっては、適切な援助態勢があれば企業に就職することも今後は可能でしょう。しかし、重度知的障害の人で(まれに中軽度知的障害の人も)、集団行動や継続作業の難しい人たちについては、作業だけではなくさまざまな活動を行う通所施設、つまり「デイセンター」が必要です。
○デイセンターは、中途障害を含め、身体障害や精神障害・難病・重症心身障害などさまざまな社会的重度の障害をもつ人にとっても必要です。武蔵野市では知的障害の重くない重度身体障害の人向けに「デイセンターふれあい」(身体障害者デイサービス施設)があり、「やまびこ」には重度知的障害の人、重度の身体障害と知的障害を併せもつ人(重症心身障害)、自閉症と知的障害を併せもつ人など、集団行動の難しい人たちが通っています。このように都市部ではある程度障害別につくれますが、なるべく三〇分以内で通えるぐらいの地区ごとにデイセンターがあるといいので、各デイセンターはさまざまな障害をもつ人たちが混合利用することになります。障害が多様なために全員で同じ活動は無理なので、それに合った活動プログラムをつくります。
○デイセンターは就労に代わる場ですから、希望者は月曜日から金曜日まで毎日通え、人生の最も豊かであるべき成人期をずっと通して利用できなくてはなりません。個々の利用者が希望や状況に応じて授産施設など他の施設に移ることはあっても、センターとして利用期限を設けるべきではありません。日中の生活をしっかりと支えるために送迎サービスや食事サービスも欠かせません。また、希望すれば曜日によって他の社会資源を利用できるようにしたいものです。
〇作業・文化・生活・健康などの活動を、できるだけ当事者の希望や意思が尊重され、最もその人らしく生き生きと取り組めるように、なるべく地域住民との交流を深めるように行います。作業が無理ならしなくてもよいし、できる人には出来高払いの工賃支持があってもよいでしょう。
○知的重度の人に対しては「訓練・指導・療育・実習・更生」という言葉が安易に使われます。これらは主に「がまんして行えば、その成果によって次には本物のすばらしい生活がある」ときに使われる言葉ではないでしょうか。デイセンターは成人期という人生の花を豊かに開かせる場であり「本物の生活」そのものですから、目的は指導・訓練・療育などではなく、一人ひとりの社会参加や自己実現を「援助すること」です。訓練や指導や療育は援助の一部分にしかすぎず、目的・期間・時間を限定して行うべきであって、漠然と長期間行うべきではありません。また、施設の名称を「訓練施設」「実習所」「更生施設」と表現したり、利用者を「訓練生・園生・寮生」などと生徒扱いしたり、援助職員が自らを「先生」とよぶことも、ふさわしくありません。
○このようなデイセンターの国制度はまだありません。よく似た「デイサービス」という制度が身体障害・知的障害それぞれにありますが、週に二日間程度の通所を想定した運営費しかありません。通所更生施設も授産描設も本来は軽い障害をもつ人向けの制度なので職員数が足りません。先進的な地域ではこれらの制度に市や県からの大幅な補助金を上乗せしたり、東京都の「生活実習所」のように都や市・区が独自の制度をつくったりしています。今後、国の制度化を求めることも重要ですが、各地域の親の会が地方自治体に独自の補助制度を求めていくことも大切ではないでしようか。(三月号に続く)


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