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知的障害者福祉研究報告書
平成7年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


第3章 国内調査

1. わが国の地域生活援助の実践

伊達市の地域生活援助の概況 No.3

■太陽の園・旭寮が援助する地域住居一覧(平成7年4月1日現在)



●多くの選択肢
太陽の園の授産施設は、障害の重い人が利用している。平均年齢が43歳ぐらいで、6割程度の人が知的に重度の障害を持つ人たちである。
私が学園長として10年ほど前にそこにいたときには、みんな高齢で障害の重い人たちであるから、一生施設にいるしかないと思われていた。
しかし、障害は重いが年齢は高いから情緒的には安定していたのである。
そのようことからそういう人たちをできるだけ社会参加させようということで、活動を始めた。
1つの施設が20名のファミリーから構成されており、それが5つある。だから選ぶといってもほとんど選べない人生であった。
それらの人たちのために、ケア付きホームやグループホームを作って、地域の中に生活の場を移して、そこに職員が宿直するというようなものを作っていった。
また太陽の園では、当初職員も園生も共に生きるという考え方から同じ敷地内に住んでいた。ところが、職員に子どもができたりして、地域へ出ていった。
そこで職員住宅に空きができて、そこに障害を持つ人が暮らすようになった。これはスウェーデンなどでも見られる施設内グループホームである。
このようにグループホームや、アパートや、職員住居など少しづつ選べるようにつくっていった。

■太陽の園が関わる地域生活者の住居体系



●旭景の機能と支援システム
旭寮の機能は大きく2つに分けることができる。
1つは、地域生活者援助機能として障害を持つ本人を支援していく機能と、もう1つは援助ネットワーク推進機能としてのまちづくり機能である。
地域生活者を援助する役割の中には、通勤センターとしての20名の入寮者をここの中で育てるという役割と、地域援助センターとして地域で生活する人たちを一生涯安心して暮らせるように援助していく役割がある。
また、援助ネットワーク推進機能は旭寮の特徴になっている。
障害を持つ人の人生はまさに綱渡りである。地域で暮らしていても、親が病気になったり、本人が失業したりといろんなことで地域生活が継続できなくなる。
サーカスで綱渡りができるのは下に安全ネットが張ってあるからである。
ところが日本では、この安全ネットがないのである。そういった安全ネットを作っていこうというのが今のわれわれの目指しているところである。

グループホームでも施設でも学校でも事業所でも数が沢山あっても、それらがばらばらでは意味をなさない。これらが横につながっていかなければ意味がないのである。
施設だけがどんどん大きくなってもそれは大きな点にすぎない。
施設と学校をつないだり、グループホームと事業所をつないだりしていくことで線ができてくる。その線をたくさん作っていけば、網の目ができてくるという考え方である。
ところが、日本では点のところ、施設をいかに大きくするか、充実させるかという、一点豪華主義である。ネットワークというシステムの考え方が非常に弱いのである。
コーデネイトする行政の側は2〜3年で担当者が異動してしまう。システムとは人間関係であるから、2〜3年で人間が変わるということではつながりができないのである。そのようなシステムでは危なっかしいから行政もお金を出せないということになる。そうすると、地域の中は非常に不安定である。社会資源があっても、破れ目があったり、線から落ちたときの安全ネットがないのである。
そこをしっかりつないでいこうとするのが旭寮の役割なのである。

●オーダーメイドのサービス
障害を持つ人もまちで暮らす普通の市民である。つまり日常生活上の問題も私たちの市民生活と同じだけの量がある。
お金のこと、住宅のこと、食事のこと、人間関係、男女交際などあらゆる面のにおいて同じように問題が起こる。
援助の方法としてはできることは自分でやる、できないことについてはわれわれが支援するというやり方である。
施設では、できる人にも、できない人にも同じサービスを提供せざる得ない。
24時間ケアの必要のない人にも同じようにサービスを提供することになる。
地域で暮らす人には、結婚している人もいれば、ひとりで暮らしている人など、それぞれ個別に事情は違っているわけである。
われわれは、サービスのメニューの中から、求められたものについて提供していくというやり方である。いわば「オーダーメイドサービス」である。

■旭寮の機能と支援システム



●地域生活推進連絡会
地域の中で横のつながりを作って、地域生活を安定したものにしていくことを目的として、「地域生活推進連絡会」を組織している。
その活動の中で、世話人さんの研修会や、本人の自治会の旅行の計画をしたり、行政との話し合いを行ったり様々な活動を行っている。
私たちは、ばらばらではなくいかにつながりをつけていくかということを重視している。

●旭寮家族の会による地域生活支援事業
旭寮家族の会とは、旭寮に入寮している人と地域生活をしている人の家族の会である。その活動は地域生活を安定したものにしていくための6つのメニューから構成され、12人のスタッフでそれに取り組んでいる。
?@生活寮等運営事業…制度にのらない谷間(無認可)の住居を運営する事業。
?A住宅提供事業…アパートで生活する人のための住居を提供する事業。
?B給食サービス…アパートで暮らす食事の作れない男性などを対象に食事サービスを行う事業。
?C財産管理事業…地域で暮らす人の財産を管理する事業。預金や保険の有効活用により財産を管理する。
?D訪問サービス・外出アシスタント…ガイドヘルパー的なサービス。
?E多目的ホーム運営事業…生活自立訓練、緊急保護、研修・宿泊等

●地域生活者自治会「わかば会」
旭寮を事務局として「わかば会」という本人の自治会がある。
ここでの自治会の活動は活発で、今度日本で初めての1,000人規模の本人たちの全国大会があるのだが、その事務局がここに設置されている。

●職親会
伊達市には、そんなに多くの企業はないが、それでも82の企業において約200人の人たちが雇用されている。
雇用を進めていく方法としては、雇用促進制度をいろいろ活用することである。
職場的訓練制度、特定求職者雇用開発助成金等の制度を平成6年度には55件活用した。
障害を持つ人を雇うと月に3万円ずつ企業に補助金が出るとか、1/2の給料を助成するとか、450万円の機械設備がでるなどの助成があって、それらの制度を利用しながら、障害を持つ人の雇用を進めている。
しかし雇用してくれる企業の多くは零細企業で、これらの制度を活用するノウハウも書類の作成方法も知らない場合が多い。
そこで職親会という事業主の団体を組織して、ここに事務局をおいてそれらの支援を行っている。
障害を持つ人はいわば弱い労働者であり、それらの人を雇用してくれる企業も弱い零細企業である。
障害を持つ人の雇用を進めていくには、できるだけ助成金などを活用して、企業に強くなって貰い、基盤をしっかりしたものにしていければ、障害者の雇用も進んでいくと考えている。

●地域共同作業所
一般企業で働けない人のためには、地域共同作業所を作っている。設置運営は、親の会が担っている。

●地域生活支援システム
まちの中で暮らすためには、「暮らす場」、「働く場」、「楽しむ場」、そしてそれを支援する「地域援助スタッフ」が必要である。
お金があって、住むところがあって、働くところがあって、余暇活動の場があって、それをお世話する人がいれば、障害を持つ人の多くが施設ではなく地域でふつうに暮らすことができるようになる。
問題になるのは、地域で生活する人をお世話する人について日本には制度がないことである。旭寮には地域援助スタッフが49名いるのだが、これらの人を雇う制度はないのである。
太陽の園や旭寮は公立の施設であるから、勝手に建物を建てたり、人を増やすことはできない。
そこで親の会や、職親会などに支援団体になってもらってこの人達を雇うという形態をとっている。
地域生活援助スタッフは制度がなく沢山のお金は払えないが、主婦の方や学校や施設を定年した方に働いてもらっている。
太陽の園には400人の人たちが住んでいて、その予算総額は16億円である。
それに対して地域に住んでいる200人の人たちを援助している旭寮の予算額はグループホームを含めて8,000万円である。足りない分は利用者負担や団体を組織して支援しているが、これも1つの矛盾点である。
地域福祉が進んで、障害を持つ人が地域でふつうに暮らせるような制度が充実してくれればと願っている。




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