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知的障害者福祉研究報告書
平成5年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


第1回 精神薄弱者福祉研究会 資料

米国精神薄弱者福祉事前調査報告書(抜粋)

コネチカット州

○トニー・リチャードソン、精神遅滞部長の挨拶
コネチカット州の目標は、精神遅滞者を日常の生活に参加させ、人々の態度の変化及び環境の変化を通じて、一般の人々が障害者を受け入れるようにすることである。これらは理想であり、現実にはまだ達成されていない。

コネチカット州精神遅滞部の使命表明(一部)

精神遅滞部の使命は、他の部門と共に、精神遅滞の人すべてが次のような経験をする条件を創造することである。

●コネチカットの町の生活にとけ込み、参加すること
●適応力を育て、行使する機会
●自分の将来にわたる選択をする機会
●家族や友人との良き関係
●尊敬と尊厳

■コネチカット州精神遅滞部の沿革

<1960年〜1978年>

以前の精神遅滞部は、州の様々な場所に「小さな」施設を建設。
「小さな」とは、24〜80人の入居者がいる施設である。

これらの「小さな」施設には、合計3,746人の入居者が住んでいたが、そのほとんどに対し、プログラミングはなかった。
当時、精神遅滞者を「小さな」施設に収容するやり方は進歩的と考えていた。

それより以前の政策は、隔離した地方に、二つの大きな施設を作ることであった。(マンスフィールド訓練学園、サウスベリー訓練学園)

「小さな」施設は、lCF/MR[intermediate care facility for people with mental retardation](精神遅滞者中間ケア施設)と呼ばれ、連邦のメディケイド・プログラム(低所得者への医療扶助)により補助されていた。

グループホームが全体的な医療プログラムの一部として証明された場合、メディケイド・プログラムは同時にグループホームに対しても補助することができた。

メディケイドの必要条件には質的保証も含まれ、当時これは質の高いサービス条項と見なされていたが、質的保証に関する規則は医療に向けられたもので、社会的条件、または教育条件に関するものではなかった。

この頃、174人の精神遅滞者が州精神遅滞部の運営するグループホームに住んでいた。

当時、重度の精神遅滞児は公立学校への入学を許可されていなかった。

この時期において、精神遅滞児の親及び成人の精神遅滞者は、自らがデイ・プログラムを開始し、精神遅滞児連合と呼ばれる組織(ARCと呼ばれる。)が、これらのプログラムの多くに対するスポンサーとなった。

<1977年〜1985年>

1977年に、公法94-142号、全障害児教育法が施行。

1977〜1984年までの期間、ARCは入居者が治療の権利を否定されたことを理由に、州のマンスフィールド訓練学園の状況について、州を相手に訴訟を提起した。
(マンスフィールド訓練学園は1917年に開校)
この訴訟の結果、及びアメリカにおける精神遅滞者へのサービスの変化により、州は徐々に施設への収容を廃止し始めていく。

州の施設に住む約800人の入居者は、ナーシング・ホームに移された。
ナーシングホームに移すための資金は、メディケイドから100%拠出されている。
(SNF(skilled nursing facility):「専門的看護施設」と呼ばれる。)

更に、グループホームに住む精神遅滞者の数は、598人に増加した。

またフォスターホームに類似するコミュニティ訓練ホームも作られた。
(foster home:グループホームの一種、里親家族による生活サービスの提供)

コミュニティ訓練ホームは、3人までの精神遅滞者がホームの家族と生活することができ、家族はこれらの精神遅滞者の介護に対してメディケイドより支払いを受けるもので、約320人の精神遅滞者がこのホームに住んでいた。

1979年〜1984年における州の政策は、一部の障害者にとってコミュニティーに住むのは適当であるとはいえ、未だ他の精神遅滞者は常に施設に住む必要があるという考え方をとっていた。

メディケイドの資金は、施設及びグループホームの費用の支払いに当てられていたが、そのサービスも医療モデルを基準としたものであった。

この同じ期間に、州の財源で建てられた障害者ワークショップが急増した。

子供の家で実験された早期介入プログラムは、0〜2歳までの子供のために開始され、その後はトッドラー・グループ、すなわち、2歳以上の発育障害児のためのプログラムが開始された。これらのプログラムは、賃借した場所又は州の施設を使って行われる一般のトッドラー・デイ・ケアとは別個に実施されるプログラムである。

1984年、コネチカット州ARCは前記のように州を相手取り、提訴していた。
(それまでARC及び州は証拠の収集、並びにマンスフィールド訓練学園の状況を観察するために専門家を派遣した。)この頃、両者は解決に同意し、裁判官の同意判決を下した結果、精神遅滞部には重要な変化が生じた。

<1985年〜1993年>

新しい部長の任命により精神遅滞部が再編され、この結果、州は6つの地域に分割され、各地域にディレクターが置かれた。
その結果、ケース管理システムの確立され、民間部門の運営するグループホームの建設、雇用助成プログラム等が開始され、過去10年間で精神遅滞部の予算は10倍となる。

早期介入プログラムは変更され、分離された幼児プログラムは廃止となり、代わりに、2歳以上の障害児は通常のデイケア・センター及び保育所に通い、州職員が助力していくことになる。

0歳〜3歳までの子供については、州によって所管の機関が異なる。
コネチカット州、ロードアイランド州、及びオレゴン州においては、それらの子供については精神遅滞部が責任を負い、3歳〜21歳までは教育部の権限のもとに置かれる。

他の州においては0歳〜21歳までの子供は教育部の責任のもとに置かれている。
コネチカット州の教育部は精神遅滞部のように障害者も差別せずに学校に入れる方針はとっていない。
コネチカット州には169の町があり、ほとんどが学校を管理している。
障害者を(一般の)学校に入れている町は一部であり、多くはそのようにはしていない。

この結果、精神遅滞部は2歳の障害児を通常のデイケア及び保育所に入れるために努力していくことになる。
その理由は、公立学校が3歳の障害児を分離をプログラムに入れたいと考えている場合、親がそれに抗議し、障害児はそれまで一般のプログラムにおいて何ら支障がなかったと述べられるようにするためのものである。

しかし、この戦略は、時折有効に機能するに過ぎない。3歳児の約半分が、差別のない統合された保育所に行っているに過ぎないからである。また、一部の家族は別の町に転居して、障害児が差別のない包括的な学校に入学できるようにしている。

家族扶助プログラムは、家族に直接、資金を与えるために開始されたものである。この資金は、家族が障害児を自宅に置くために有益な、いかなる用途にも使うことができる。
例えば、一時的な助けを求めたり、親が休息するために子供の世話を頼んだり、家族の休暇に使用することができる。

具体的には家族は月額$250か、または年間$3,000を一括して貰うことができる。また、家族は年間$3,000の範囲に制限されずに、もし障害児を自宅に置くことができるのであれば、$20,000までの資金を受けることができる。

家族へのこのような支援でさえ、グループ・ホームよりもはるかに安い金額と言えるものである。グループ・ホームは年間1人あたり$60,000〜$80,000を要する。居住施設では1日1人あたり$250(または、年間1人あたり約$91,000)がかかっている。

最も高額な家族扶助は生活扶助とほぼ同額であり、従ってほとんどの家族扶助は、生活扶助よりも安く済んでいる現状である。

現在、利用者の半分が自分の家族と一緒に住んでいるとはいえ、家族扶助は精神遅滞部の予算の1%を占めている。

これらの資金は慣例、および立法府の予算配分に従って正当化できるものである。
精神遅滞部は、家族扶助を法律上義務づける法案を提出する予定である。

精神遅滞児が成人になった場合、「家族扶助」は「個人扶助」に変わる。

このように名称を変える目的の一つは、精神遅滞者が家族から自由に離れられるようにすることである。
現在、多くの成人精神遅滞者は、アメリカのほとんどの成人と同様に1人で生活したいと考えているものの、家族と同居している。
州は、これらの障害者のすべてが個々のアパートに住めるようにするための資金を欠いているのが現状である。

(現在の平均的費用)

?@グループ・ホーム
施設サービス及び宿泊費:入居者1人あたり、1日$175(約\19,000円)
デイ・プログラム:入居者1人あたり、1日$35(約\3,800円)
(合計 $210/日=\23,000円/日、\690,000円/月)

?A生活扶助
施設サービス:入居者1人あたり、1日$55(約\6,000円)
デイ・プログラム:入居者1人あたり、1日$35(約\3,800円)
(合計 $90/日=約\10,000円/日、\300,000円/月)

*但し、これには住宅の費用は含まれない。上記の費用は連邦政府の障害給付、居住者の給与、または家族の負担である。成人に対する連邦扶助は、月額$250〜450。補助金の使途の制限はないが、通常住居費に充てられている。

?Bサウスベリー訓練学園
施設サービス、宿泊費、及びデイプログラム(*)を含めて
入居者1人あたり、1日$250(約\27,000円、\800,000円/月)
または年間1人あたり$91,000(約1,000万円、\830,000円/月)

*現在約100人の利用者のためのデイ・プログラムは用意されておらず、多くは半日のプログラムである。

個人に対する連邦補助について生じる問題は、個人が余分に働いて収入が増えた場合、連邦補助の一部、または全部を失い、収入の増加がさほどないことにある。

このことは、「意欲を挫くもの」と言うことができ、連邦の方針は、実際に労働意欲を挫くものとなっている。州は、このような連邦法を改正し、労働意欲がそがれないようにしようとしている。

また、州はメディケイドの使途変更をすることで、lCF/MR(精神遅滞者中間ケア施設)のために以前に受領した連邦資金を、医療的なメディケイド規則に従うことなく、コミュニティーの生活に使うことができる。また、同様に雇用助成プログラムの支払いにも使用することができる。

(1917年に開校した)マンスフィールド訓練学園は1993年4月に閉鎖された。

コネチカット州には、精神遅滞者である利用者は合計12,227人。その半数は、家族と同居している。

現在、コネチカット州において、1,348人の精神遅滞者が居住施設に住んでおり、その内906人は、残された大規模施設であるサウスベリー訓練センターに住んでいる。

同センターでは、各々16〜30人を収容する「コテージ」に住んでいる。州は、次の5年以内にサウスベリー訓練センターを閉鎖する計画を立てており、閉鎖の準備を始めている。サウスベリー訓練センターの利用者の平均年齢は48歳。子供は住んでいない。居住施設に住むその他442人の精神遅滞者はICF/MRに住んでおり、その数は24〜80人である。

大きな居住施設に住む1,348人のほかに、3,014人は民間が運営する485のグループ・ホーム、及び130の州が運営するグループ・ホームに住んでいる。
また、486人がコミュニティ訓練ホームに住んでおり、787人が生活扶助を受けている。(生活扶助とは自宅に住み、一定の時間だけ助力を受けることができるもの)
州法の改正により、施設サービスは民間の提供者及び州から受けることができる。

住宅は、他のサービスと結びつけられておらず、また調整されてもいないため、精神遅滞者は、貧困者が利用できる一般の住宅プログラムを利用するとともに、精神遅滞者に向けられたサービスを引き続き受けることができる。

雇用助成プログラムにより、2,500人が雇用されている。しかし、ワークショップには依然として2,100人の障害者が働いている。

その他の精神遅滞者、特に居住施設にいる者は、地域社会経験プログラムに参加しており、日常の地域社会の生活を経験する機会を与えられている。

コネチカット州における1993年の精神遅滞者の状況は、以前と比較して改善されてはいるが、州としては、まだ目標にはほど遠いと考えている。6人が住んでいるグループ・ホームですら、大規模な施設に住んでいる場合と非常に似ているからである。

過去においては、専門家のみが精神遅滞者を扱うことができると考えられていた。
その結果、一般の人々は精神遅滞者から物理的、心理的に分離させられた。
また、過去においては、家族が障害者を自宅に置いた場合、家族に対して何のサービスも受けることができなかった。現在の州の目標は、家族が一緒に住めるように助力することである。

グループ・ホームもまた精神遅滞者を隣人から引き離すものとなる。ホームの入居者が受ける助力は、すべて有給の職員から得られるものである。
州は、精神遅滞者がグループ・ホームに移された場合、彼らは職員により、グループとして扱われることを知った。

現在、グループ・ホームの入居者を個人として扱うためのあらゆる努力がなされている。州は、家族からの助力(無給)及び手助けを希望する友人からの助力を得ることを目標としている。
最後に、連邦政府において、精神遅滞者を担当する機関の長は、コネチカット州出身の男性である。彼は歩行困難で、言語障害があるためにコミュニケーション・ボードを利用している。彼が生まれた時、母親は彼をマンスフィールド訓練学園に入れるように言われたが、彼女は息子を公立学校に入学させることを強く主張したのである。

(財)日本船舶振興会に対するコネチカット州からの助言

○トニー・リチャードソン精神遅滞部長

現在、州は障害者をコミュニティーに戻らせ、施設への収容を防止することを目的としたプログラム(例えば、差別的でない包括教育、早期介入、雇用助成、及び生活扶助等)を支援するために、相当な時間と費用を費やしています。

州の夢は、コミュニティーに障害者全員を戻らせ、発育障害者のすべてがコミュニティーで生活を続けられるような状況を維持することです。
貴財団の資金は、障害者をコミュニティーに居とどまらせることを目的としたプログラムを支援するために、使用すべきであると州は考えます。

発育障害者の生活において、最も重要なことは、障害者に関心を持ち、かつ、すべてが大丈夫だと確認してくれる人が一人以上いることです。施設では、そのような関係は形成されません。従って、施設に住む障害者は、コミュニティーに住む、かような世話をしてくれる人を持つ障害者と比べて、ある意味で保護されていないのです。


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