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バスに乗ったよ」と自慢して言う子がいるという話を聞きました。しめた、これはすばらしいと思いました。

もう一つは収支が合っています。無理して経営していると思われるかもしれません。実際そういうところがあるからでしょうか、バス事業というのは苦情が非常に多いんです。このバス事業で驚いたことに初めて今年感謝状をいただきました。お客様からお手紙が来るんです。低床式のバスにしてくれて、本当にありがとうございましたという手紙が来るんです。こんなに感激したことはありません。

ヨーロッパのいろいろなまちに同じようなものがあるので、日本は遅れている、こうしなければならないなと思って、メーカーさんにもつくってくれという話をしました。三菱自動車工業さんにも、ほかのメーカーさんにもお話ししたんですが、なかなかできなかった。そういうことを踏み越えて今日が来た。そしてやってありがたがられる。

でも、それは外部から見てそうなったんで、自分が相手の気持ちになって見てそうなったのと少し違うんです。このごろそこに気がつきましてドキッとしています。スーパーがマスマーチャンダイジングから個のマーチャンダイジングに変わってきたと同じように、お客様の個のご意見を聞いてみなければわからない点がたくさんあります。それを知らないで、自分がこういうのがいいのではないかなと思っただけでやっていたのです。とんでもない間違いをしでかしていたかもしれないし、偶然よかったかもしれない。

経営がきちっとそろばんどおりに合うなら、皆さんもうかるはずです。元来、経営にはいくらか博打があります。いいと思ったら信念を持って実行する。失敗したら修正して直していく。うまくいったらよかったとうんと騒がれて、失敗したら何だと言われる。私も失敗はいろいろしています。

どういうことを知らなかったかと申しますと、例えば車いすの方、目の不自由な方、耳の不自由な方、いろいろいらっしゃいます。そのバリアは一体どういうところにあるのかということを私は知らなかった。私どもの従業員にも車いすの者がいて、その意見を聞くと、いいことは言ってくれるけれど、これは困るということはなかなか言ってくれない。ところが、この前ある会合で身障者の方の話を聞いていてなるほどなと思いました。

老人になると足が痛くなる。関節も痛くなる。上り下りは大変だ。だからエスカレーターはとても便利だ。それはおわかりのとおりだと思います。上るときのエスカレーターより下りのほうがいい。どうしてだ。上りは階段で転んでも転ぶだけだが、下りるとき転んだら死んでしまう。こういうことです。言われてなるほどなと思いました。

それから、目の見えない方は点字ブロックを探して歩いていらっしゃると思ったら、あれはあんまりあてにしていないそうです。あれは身障者にもやさしいという宣伝のために引いているんじゃないでしょうか。そう言われたときは本当にドッキリしました。やめるように言ったらどうですか。いや、関心を持っていただいているということがありがたいから黙っているんです、と言うのです。一番重要なのは何ですかと聞いたら、信号だと言っていました。信号機は鳥の鳴き声だったりして、通っていいのか、通って悪いのか全然わからない。夜中になったら音が消されてしまう。外国だったら(ゆっくりと)トーントーントーン、信号が変わったら(速く)トント

 

 

 

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