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パネルディスカッション

 

「国際観光交流に於ける地域文化の活用の道を探る」

コーディネーター:

武庫川女子大学(生活情報学科)教授 高田公理

パネリスト:

民俗学者 神崎宣武

甲南大学文学部助教授 井野瀬久美恵

まちづくりプロデューサー 広野敏生

コリア・ツーリズムリサーチ・インスティテュート(KTRI) 観光政策研究室長・観光学博士 崔 承淡

フィリピン政府観光省・国内観光促進局局長 シンシア・C・ラゾ

 

高田: 今日はアジアの諸外国の方々から、それぞれの地域における地域文化を生かして国際観光をどう盛んにしていくかというお話を、頂戴したわけであります。それでは、いったい日本はどうなのかということで、「国際観光における地域文化の活用の道を探る」というテーマになっております。

冒頭に近畿運輸局の方のごあいさつで、これから21世紀に向けて、日本を訪問する観光客を倍にしようという話が出てまいりました。実は日本で海外渡航の自由化が行われたのは1964年のことであったわけです。このときにはわずか13万人しか海外に行かなかった日本人が、今日では1,700万に近い人々が海外旅行をするようになった。ざっと計算してみると、130倍ぐらいの巨大な成長を遂げてきたということになろうかと思います。

それは日本の高度経済成長の大成功で、工業と貿易でため込んだお金が海外旅行という形であふれるようになってきたと。

ところが他方、21世紀には国際観光というのは非常に巨大な産業になろうとしているのに、海外から日本を訪れてくれる人々は380万人しかない。日本の人口1億2,000万人と比較いたしますと、これはわずか3%であります。

海外からの訪問客が人口の3%であるような国、僕も興味があったので探してみたんですが、唯一ありました。現在観光鎖国をやっているブータンであります。人口160万のブータンは海外からの海外旅行者を、2000人に限定するという政策をとっておりますので、行きたい人はいっぱいいるのだけれども入れない。日本は国際化といって、どんどん日本にやって来て下さいよと言っても、380万人しか来ない、というのが現状であります。それを倍にする。倍にしてもせいぜい760万人、これは人口260万人のシンガポールがすでに達成している数であります。

なんでこういうことになるのか。答は簡単でありまして、恐らく日本に魅力がないということなのだろうと思います。その魅力を高めるのにどうすればいいかということですが、小手先の対策だけではだめだろうというふうに私は思っております。

別にわざわざその問題を考えるに、日本の国あるいは政府の悪口を言う気は全然ありませんけれども、現代の日本を巡るニュースみたいなものが海外で紹介されるときには、あまり魅力のある話題というのは出てこない。特に阪神大震災以来、オウム真理教の事件が起こったり、官僚や政治家の不祥事が起こったり、政治家や高級官僚や財界人というのは毎日土下座をしていると思えるような状況であります。

しかも国政が、本来ならそれぞれの地域にあるはずの魅力を破壊する方向に働いている。例えばこの間も、ほとんど必要がないと思われる諌早湾の干拓事業によって、非常に魅力のある自然である干潟というものが破壊されている。さらに島根県の宍道湖や中海、ここには七珍と申しまして、貴重な料理素材があるわけですけれども、そこでも同様の事態が起こっています。

先ほど冒頭にインドネシアの方が、観光開発にとって大自然の保全というのは非常に大切だというお話をなさいました。実は今日は国際観光における地域文化がテーマになっているわけでありますけれども、文化のありようはそのまま土地の自然に映し出されくる、というようなことを考えてみますと、それぞれの地域の本当にすばらしい資産を根こそぎにする国政というものからは決別して、それぞれの地域の魅力というものを高めていく手はずをこれからとっていくという、そういう決意を固めないことには、そう簡単にウェルカムプラン21というのは成功しないだろうと私は考えております。

その点で今日の基調講演にありました尼崎、ここは近松の墓があるということから町づくりを始めました。近松の墓というのは、これも本当に近松の墓かどうかよくわからない墓なんですが、そこにあるだけならタンス預金のお金と同じで、何の役にもたたないわけですけれども、これをもとにして、いわばタンス預金のお金を資本にして、活性化し、運用していくという努力が展開されてきた。

劇場を作り、あるいは大学の研究所で近松を研究し、連続講座を行い、図書館のコーナーにも近松の本のコーナーがある。モニュメントを作り、近松応援団を作り、近松音頭保存会、子どもの浄瑠璃クラブ、県の作ったピッコロ劇場やつかしんなどもすべて、近松を資本として活用していくような方向で町づくりが行われているというわけであります。

その結果、これはあとで井野瀬さんにコメントをしていただいたらいいと思うんですが、イギリスにシェイクスピアの生まれたストラッドフォード・アポン・エイボンという小さい町です。演劇に関心のある人なら必ず立ち寄るという町がございます。ここと尼崎がつながっていくというふうなことも、静かに進行しているわけであります。

そういう事例が日本の全国津々浦々にさまざまな形で、実はまだ隠れた形でそういう試みが行われている。そういう

 

 

 

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