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事例発表

 

「国際観光交流に於ける地域文化の活用」

観光開発と伝統的遺産保護のバランス

インドネシア観光副大臣・インドネシア観光総局長

アンディ・マッピ・サメン

 

?. 概括

日本で開かれたこの会議の席で、本日このような発表の場を与えていただき、誠に嬉しい限りであります。日本という国は国際的にも強い経済力を持っており、また、過去50年以上に及ぶ近代化と発展の経過は全アジア諸国の賞賛を浴びています。しかし、日本は国際貿易上の主要な相手先国であるだけでなく、豊かな文化遺産を持った国でもあり、ここでは、過去が現在にも充分に活かされています。

インドネシアは、独立国家として50年余りの間に経済開発や社会的開発において目覚ましい発展を遂げてきましたが、近代化への過程で伝統を失うことのないよう特に気を配っています。我が国は豊富な天然資源を持っているだけでなく、同じくらい重要なことでありますが、文化的・宗教的な伝統という財産も所有しているのです。インドネシア政府の長期開発計画においては、外貨獲得や雇用機会の創出に関連する最重要項目として観光開発に優先順位がおかれてきました。しかしながら、我々は、伝統的遺産の保護を犠牲にしてまで開発を優先すべきではないと言う結論に達しています。

観光開発と伝統的遺産保護の理想的なバランスについて語るのは、原則としてたやすいことです。誰しも進歩や繁栄を願い、同時に文化遺産を無傷で隆盛を極めたままの状態に保ちたいと考えています。しかし、現実世界では、公共組織や民間組織の人々が、観光開発と伝統的遺産の双方に影響を及ぼすような様々な決断を日常的に下しています。このような決断は全て開発と保護活動のバランスに影響を与えているのです。

保護活動と観光事業は双方とも多面的であります。その特徴として、高度に相互依存していることや、様々な公共・民間・非営利組織が関係していることが挙げられます。何を保護し、何を保全し、何を開発するかという点に関してはあまりにも多くの利害が関わってくる為、私の考えでは、進路を決める際には政府が根元的な部分での役割を果たすべきでありますし、また、そのような公的責任があることははっきりしていると思います。

 

?. 伝統的遺産に対する理解

文化遺産は広義には、天然のものも人工的産物も含み、また、有形・無形いずれをも意味する為、大変複雑です。これを定義するのは難しく、また、規制や保全、維持、保護等も困難な作業となります。どの国にとっても、文化遺産は国家としてのアイデンティティーを示す基本的な部分であり、だからこそ重要な価値基準や微妙な問題に関わってくるのです。この点について異論はありません。即ち、文化遺産は一つの組織にのみ属するものではなく、また、そのようなことは不可能なのです。特定のグループや共同体にも、そしてもちろん共有財産を特定の局面から利用したいと考える営利本位の事業家にも属することはありません。

一般に伝統的遺産には天然・人工を問わず、あらゆる様相の伝統的遺産が含まれるとされています。伝統や儀式、価値体系のように定義が困難な生活上の無形物もその例外ではありません。文化遺産には衣服や食物、芸術、工芸品等、有形物も含まれます。このような広い定義においては、全ての国が独持の文化遺産を持っていると考えられます。つまり、独自の習慣や独特の食生活、言語等が地理上の特定地域で見られるであるだろうということなのです。

例えば、インドネシア国内では、1万7千余りの島々におよそ350の民族の存在が確認されています。しかし、同時にインドネシアという国家も存在し、このような多種多様な文化遺産をまとめて、一つの言語を話し、同じ国に共に生きようという強い決意を持ったインドネシア人という一つの国民を作り上げているのです。

故に文化遺産については、各地方ごとの具体的な役割とともに国家的、更には国際的な側面をも考慮に入れる必要があることは明らかであります。文化遺産が特定の局面で見せる多面的役割を示す例として、中部ジャワ州ジョクジャカルタ近くに所在する9世紀の傑作ボロブドゥール寺院が挙げられます。今日では、ボロブドゥールはインドネシアにおける仏教組織のみに「所属」するに止まらず、日本を含む世界中の仏教徒に属するものと言えるでしょう。

しかし、ボロブドゥールには毎年何千人もの学生も訪れます。よって、この寺院はある意味で、我が国の若者たちにも属していると言うことができます。ボロブドゥール寺院はイスラム教徒が優勢な地域に所在している為、彼らの税金や拝観者の拝観料が寺院の維持費や保全費用に充てられています。したがって、この寺院はイスラム教徒社会にも「所属」していることになります。ボロブドゥール寺院はインドネシアの伝統的建築物としては重要なものであり、インドネシア政府や国民の10年以上にわたる努力と莫大な費用・労力の結果、その過去の栄光を取り戻しました。しかし、この試みは国際的専門家やユネスコの支援にも支えられています。更に、ボロブドゥールは、世界遺産にも指定されています。この為、ある意味でこの寺院はインドネシアのみならず人類全体にも「所属」していると言うべきでしょう。

これらの事例を採り上げたのは、世界中の人々が「文化遺産」とは正確には何を意味するのか、利害関係者は誰か、その運営について相談するのにふさわしいのは誰か、といっ

 

 

 

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