日本財団 図書館


ているわけですが、広く分けまして文化と文明。

例えばアジアの中では、ソウルとかバンコクというのは大変カルチャーの匂いが強くするところですね。つまりそこ特有の匂いというものがします。それから香港とかシンガポールは非常に文明度が高いという印象を私は持ちますね。

理想的な文化観光都市というものは、恐らく文化と文明が共存して、両立しているところだと。つまりいくら土地固有の匂いがあり、歴史があっても、あまりに不便では話になりません。一方で便利なだけというのでは人間ちょっとさびしいんです。私なんか表通りがものすごくきらいな人間ですから、イヤな知り合いがいたらパッと逃げられる裏通りのない町というのがあまり好きじゃないのです。ですから、そういう意味でオールドタウンというもののひとつの界隈性の魅力、こういうものをもう一回再発見してみたいなと。人間というのは明るいところばかりは決して好きではない。やや暗がりが好きなところがあると思うんです。京都なんかはそういう意味で路地裏すら観光化しているわけです。

今大阪市が集客都市というのをうたいまして、観光地を目指しているわけですが、やや文明、シビライゼーションの観光に片寄っているんじゃないか。いろんな映像を使った施設とかの建設です。それはまあ基本的に賛成で反対はしませんけれども、もうちょっと固有のカルチャーを活用した観光を考えた方がいいんじゃないか。例えば演劇であるとか、そういうものを観光資源として見ていないということが非常にもったいない気がするわけですね。

例えば今大阪城と住吉大社、四天王寺を組み込んだ観光コースとか、そういうのがあります。あるいは大阪城と海遊館もできてますが、もっともっと広げて、一見ミスマッチに思えるようなもの、例えば歌舞伎や文楽と海遊館という考え方もできます。つまりそこに行かなければないものの組み合わせでいきますと、かえって新しいものと古いものを組み合わせるということがおもしろいという言い方もできますし、新しい観光コースが開発できるんじゃないかなと思っています。そういう意味で、今後の大阪の文化度と文明度をうまくかみ合わせた観光コースを期待したいと思います。

関西国際空港にゆかりのイベントとして申し上げますと、今度滑走路を増やして、さらに空港島を拡大したいとおっしゃるようでありますけれども、ぜひデザインを、空港の建物のデザインはレンゾという人がやりましたけれども、島全体のデザインをもう一回考えていただきたいと思っています。

空から見たらわかりますが、関西には日本で一番最初のデザインが生まれています。堺にごさいます前方後円墳という、昔の天皇、大王の墓がたくさんあるわけです。ひとつ関西国際空港も空から見て前方後円墳の形にしたらどうかなというのが私の考えで、非常にデザインとして目立つものになると思うんですね。

なんか、これは私が子どものときに地図を見て、琵琶湖と淡路島がいつも対になってるなとくだらないことを考えてたんですが、そこからヒントを得まして、堺の仁徳天皇陵のような形をした新空港が海上にあれば、ひとつ話題にはなるだろうと。その土砂をどうするんだという、それは私は知りませんけれども。そんなしゃれっけも出していいんじゃないか。

あるいは空港も、関空はまずまず成功しておりますけれども、もっと関空自体の集客も考えられると思います。北海道の千歳にスカイギャラリーというギャラリーがありますので、日本が非常に先進的に切り開いてきた漫画のギャラリーのようなものがあっても構わない。

それからタクシーの料金が高いので、関空でタクシーが客待ちの行列になっています。それは大阪市内まで入るということを考えすぎているからであって、もっと空港都市の泉佐野の中だけで2時間ぐらいだけでとか、1時間だけで回れる観光コースも十分つくれると思うんですね。それはちょっと山の方へ行きますと、なかなか味わいのある場所もありますし、いくらでもできる。そういう観光コースの開発もこれからで、地元でもおいおい進めているようなように聞いております。

いずれにしましても、日本人はこの120年間モノづくり一辺倒で突き進んできました。このモノづくりの技術というのは大事でありますから、今後も継続していかないといけませんが、モノづくり一辺倒からそろそろ物語もつくり出すという、そこへきてるんじゃないか。

ゼロから物語をつくるのは大変です。これはつまりモノをつくるということが常にゼロからつくることが多いものですから、歴史的な名所までゼロからつくるという発想がしみついていると思うんですね。だから常にパビリオンをつくる、そういう発想が多いわけですけども、既成の物語の上に新しい物語を積み重ねて厚みをつけていく。それによって付加価値を高めて観光客を誘致する。これはやっぱり関西が一番向いていることなので、一見これは地道に見えますけれども、大きな波及効果があるんだということを結論にしたいと思います。

神戸では戦前中国人街だけじゃなくて、インド人街、ボンベイタウンというのがあったそうです。これなんかも今既成のあまりパッとしない商店街を活用して、もう一回つくったらどうかと思います。既に値打ちの高い北野町のようなところはやめましょう。日本ではすぐイメージのよくなったところがどんどん繁華街になってしまうんで、住宅街の食い荒らしになっていくんですね。そうじゃなくて、今何ということのない、忘れられたようなオールドタウンをもう一度再生させる方法として、かつてあった物語とか歴史とか文化を再活用していったらどうかなと、考えています。

阪神大震災からの阪神地区の復興も決して更地になったわけじゃないわけで、ここで本当に生き残れる文化ソフトというものが試されていると思いますから、そういうものを生かしていく方向で町づくりをしていきたいと思っています。

今、朝のNHKで、『あぐり』というドラマをやっていますが、この次のドラマが灘の酒蔵が舞台で、そこに生きた女性の話になるんだそうです。これなんかやっぱりひとつの新しい観光ゾーンをつくる絶好のチャンスがぎているんじゃないかなと思います。私自身が西宮市で被災したので、西宮の復興におきましても、そういう酒蔵をもう一回活用してみたいと、今作戦を練っているところであります。

この辺で終わらせていただきます。どうもありがとうございます。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION