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た事柄を見極める際に直面する、複雑極まる難題について強調したかった為であります。

 

?. 保護活動と開発

開発は複雑で多面的な事象であり、インドネシアでは、観光化以外にも他の経済的・社会的開発が様々な形で同時進行しています。異なる経済組織が進めるこのような開発活動を包括的に見ると、文化や伝統だけでなく、自然環境や建築環境に多大な影響を及ぼしていることが判ります。工業が住宅、運輸、農業、教育、都市化、マスメディア等に作用する近代化や開発は、これまでも大きな影響をインドネシア社会に与えてきたし、今後も与えることでしょう。マクロ的視点から見ると、観光事業は我が国で進められている経済的・社会的開発全体の中の一要素に過ぎないことがたやすく理解できる筈です。

もしもインドネシアの観光事業が明日消滅するとしたら、我々の自然や文化的遺産に対して影響を与えるものは一切なくなるでしょうか。もちろん、そのようなことはあり得ません。だから、これらの事項について議論する際には、観光事業だけでなく、他のあらゆる開発が我々の社会に影響していることを忘れてはならないのです。

また、大きな変革が進行中の国々では、伝統的遺産は日常生活を形作る本質的な要素であり、それゆえに観光化であれ、他のものであれ、あらゆる開発においてこの点に気を配る必要があるということに留意しなくてはなりません。例えば、西洋諸国では通常、伝統的建築物については面積や住宅地域との関係でしっかりとした規定があります。しかし、発展途上国では、伝統的建築物は村落や地域社会の一部または一区画なのです。その為、与えられた土地を国内や海外からの旅行者向けの観光地として開発する際には、単なる観光開発だけに止まらず、例えば交通管理の問題等、多くの社会的事項が関わってくるのです。

観光客がアテネのアクロポリスやローマのコロセウムを訪れる時、例えば文化遺産の敷地内とその周辺社会とははっきりと区別されています。しかし、同じ観光客がバリ島を訪れ、寺院で行なわれる奉納の儀礼を見る時には、これも彼らが旅の目的として見る文化遺産の一部なのです。一方、バリ島の人々にとっては、日常生活の一端にすぎず、現在の暮らしそのものであって観光客目当てに演じられる遠い過去の出来事ではないのです。結果的には、島全体が生きた文化遺産となっているのです。

 

?. 政府の役割

ご覧の通り、政府は国家全体を代表して観光事業や伝統的遺産の管理を計画しており、インドネシアにとっては非常に重大な役割を担っていることになります。政府は、より広く長期的な展望を持ち、様々な利害関係者の利害のバランスを保たねばなりません。既に判っていることですが、観光事業は広汎で複雑な活動であり、それぞれ異なる事業目的や能力を持って現地や全国で、または国際的に活躍する多様な開発業者によって様々な状況で開発される多種多様な分野(宿泊施設、アトラクション、交通機関、基盤施設、支援業務等)から成り立っているのです。

故に、計画立案を定義するとき、開発の過程において社会的・経済的または環境上の利益を増大させる目的をもって、開発を秩序良く推進する為に現状の変更に参加し、それを制御する活動であるとするなら、計画立案が必要不可欠であることは明らかです。観光事業というシステムの特徴として、少なくともある程度の計画を立案すれば、実質的な利益を得られることがはっきりしています。補償や移転、法令の制定、規制の設定、復元等、相互に補完関連した側面も、必要上、計画の中に多数含まれることになります。いずれも、政府が取り扱うのが最適と考えられる事項ばかりであります。

政府による観光開発及び伝統的遺産の保護に関する計画の立案過程は、要約すると、一般に下記のような各段階にまとめることができます。

1. 方針の設定

2. 指定と保護

3. 復元と開発

4. 監視と規制の実施

これらの局面は、それぞれ相容れないものではなく、活動が部分的に重なることもあります。これは、特に上記の3について期間を決めた場合、時折要求されることですし、その他、4を推進中にも起こり得る現象であります。

市場機能は、繁栄する健全な観光事業には不可欠の要素ですが、それを重視すると、重要な物理的・文化的景観を維持管理する為に充分な資源を割り当てられなくなることがしばしば証明されています。また、破壊や汚染等、容認できない影響を生むこともあります。世界観光機関が述べているように、市場では短期的な取り組みが行なわれることが多いのですが、一方、物理的、文化的、経済的または社会的な環境に対する影響の方は、通常長期的に発生するものであるのです。

雇用が生まれ、収益が得られる等の利点に関しては観光事業は歓迎すべきものでありますが、短期的な営利上の利害が優位を占めることがなく、観光事業や伝統的遺産の管理に関する長期的展望を適用するのが我々の考える基本方針となっています。

開発と保護活動の関係を評価する上で、計画立案から監視と規制の実施に至る全ての段階を通じて、概念的枠組みとして利用できる原則が4点あります。

 

 

 

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