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火災をめぐる法律責任の諸相(中)

――市民に対する防災教養の一環として――

茨城大学講師(非常勤)関 東一

 

3 火災と刑事責任

(1) 放火罪(承前)

 

ア 現住建造物等放火罪

(ア) 意義

現住建造物等放火罪は、放火して、現に人が住居に使用し、又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船若しくは鉱坑(以下本稿において「建造物等」という。)を焼損することによって成立し、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処せられ(刑法第108条)、未遂の場合も処罰されます(同法第112条)。「人」とは、犯人以外の者をいい(最高裁昭和32年6月21日判決)、「現に人が住居に使用し」とは、放火のあったとき、犯人以外の者がそこを住居、すなわち生活の場として使用していればよく、必ずしも常にそこにいる必要はないのです。したがって、犯人だけが住居として使用している場合は、「現に人が住居に使用し」とはいえませんが、犯人が妻子と住んでいる場合、妻子は法律上(刑法上)他人ですから、「現に人が住居に使用し」にあたります。「現に人がいる」とは、放火のときに犯人以外の者がそこにいることですが、そこにいる権利の有無を問いませんし、また、犯人以外の者がそこにいる限り、住居として使用している必要はないのです。「建造物」というのは、家屋やこれに似た工作物で、土地に定着し、屋根があって、壁や柱に支えられ、少なくともその内部に出入りできるものをいいますから、物置小屋は建造物にあたりますが、犬小屋は建造物ではありません。

(イ) 裁判例

裁判上、現住建造物等放火罪として処罰されたものの一例として、次のような事例があります。

?@ 神棚のローソクが倒れそうなのに、保険金目あてに、そのまま外出した事例(大審院昭和13年3月11日判決)

?A 営業所で残業中、多量の炭火をそのままにして仮眠している間に、ボール箱に引火し木机に燃え移ろうとしているのに気付きながら、自分のミスを発覚するのをおそれて、そのままにして帰宅した事例(最高裁昭和33年9月9日判決)

?B 窃盗犯人が盗みに入った家で、紙たいまつ(紙をまるめて点火したもの)を作って物色中、これを机の上に置いたところ、書類が燃え上がった。そこで消火しようとしたが、消火する物音で見つかってはまずいと思い、そのまま逃亡したため、火災となった事例(広島高裁岡山支部昭和48年9月6日判決)

?C K派を称するグループに属する者が、警察官の待機・警戒中のS駅東口派出所に向かって火炎ビンを投げ、同所入口付近を炎上させた事例(東京高裁昭和52年5月4日判決)

?D 別れた女性の関心をひこうとして、自分の居住するマンションの空室に入り込み、火を放ったが、同マンションの居住者に発見され、同室を焼損しただけで鎮火した事例(東京高裁昭和58年6月20日判決)

?E 精神病院の入院患者数名が同病院を脱走する目的で、第二病棟内の布団部屋に放火し、同病棟を全焼させた事例(宇都宮地裁足利支部昭和49年1月14日判決)

 

イ 非現住建造物等放火罪

(ア) 意義

非現住建造物等放火罪は、放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船若しくは鉱坑を焼損することによって成立し、2年以上の有期懲役(原則として、15年以下、ただし加重されるときは

 

 

 

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