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20年以下となる。刑法第12条第1項。第14条)に処せられ(同法第109条第1項)、未遂の場合も処罰されます(同法第112条)。ただし、放火した物が自己所有の物であるときは、これによって公共の危険が発生した場合に限り本罪が成立し、6月以上7年以下の懲役に処せられます(同法第109条第2項)。もっとも、自己の所有物であっても、差押えを受けたり、他人に賃貸したり、あるいは保険に付した物は他人の物とみなされます(同法第115条)。「現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない」というのは、放火のあったときに犯人以外の者がそこを住居として使用していないことのほか、そこに人がいないことをいいます。本罪の典型的な例は空家や物置などに対する放火ですが、本罪の目的物には汽車や電車が含まれていませんから、人の乗っていない汽車や電車に放火した場合は本罪が成立せず、次に述べる建造物等以外の放火罪(同法第110条)が成立することになります。

非現住建造物等放火罪のうち、自己所有の物に放火した場合には公共の危険が発生した場合に限り本罪が成立するといいましたが、「公共の危険」というのは、放火によって発生させた実害をいうのではなく、その放火によって一般の不特定多数人に他の建造物の延焼するおそれがあると感じさせるような可能性のある状態をいいます(大審院明治44年4月24日判決)。このように、公共の危険が発生することを犯罪成立の要件としているものを具体的危険犯といいますが、たとえば他の家屋などに延焼する可能性が全くない山の中の自己所有の炭焼小屋に放火し、たとえそれが激しい火勢で燃え上がり全焼したとしても、公共の危険が発生したとはいえませんから、自己所有物に対する非現住建造物等放火罪は成立しないことになります。

これに対し、さきに述べた現住建造物等放火罪(刑法第108条)のほか、非現住建造物等放火罪のうち他人所有の物に放火した場合(同法第109条第1項)には、ことさらに公共の危険が発生したことを犯罪の成立要件としておらず、放火して目的物を焼きしたこと自体に公共の危険が発生したものとみなされ、犯罪が成立するとしています。このような犯罪を抽象的危険罪というのです。

(イ) 裁判例

裁判上、非現住建造物等放火罪にあたるとされたものの一例としては、次のような事例があげられます。

?@ 独居者が、自己の住居に使用する他人所有の建造物に放火した事例(東京高裁昭和28年6月18日判決)

?A 両親を殺害したのち、その死体の横たわる家屋を焼損した事例(大審院大正6年4月13日判決)

?B 鉄筋コンクリートのマンションの一部により、優れた防火構造を備え、1区画から他の区画に容易に延焼しにくい構造になっている病院に放火した事例(仙台高裁昭和58年3月28日判決)

 

ウ 建造物等以外の放火罪

建造物等以外の放火罪は、放火して、現住建造物等(刑法第108条に揚げられた物)及び非現住建造物等(同法第109条に揚げられた物)以外の物を焼損し、その結果、公共の危険を発生させたことによって成立し、1年以上10年以下の懲役に処せられますが(刑法第110条第1項)、焼損した物が自己の所有物であるときは、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金となります(同条第2項)。ただし、自己の所有物であっても差押えを受けたり、他人に賃貸したり、あるいは保険に付したものなどは他人の物として取り扱われます(刑法第115条)。

本罪の未遂や予備は処罰されません。

「現住建造物等及び非現住建造物等以外の物」には、人の乗っていない電車・汽車のほか、自動車・自転車、橋、建造物に含まれない取り外し自由の畳・建具・ガラス戸・障子・カーテン類・布団・机。本棚等、建造物とはいえない門、塀の類、立木等が含まれます。これらの物が他人の所有物であると自己の所有物であるとを問いません。

「公共の危険」の意義については、自己所有の非現住建造物等放火罪(刑法第109条第2項)の場合と同様です。

建造物等以外の放火罪は、現住建造物等及び非現住建造物等以外の物を焼損し、これによって公共の危険を発生させたときに限って成立する具体的危険罪ですが、これらの物のみを焼損する認識があればよく、公共の危険を発生させることまでを認識する必要はないとされています(最高裁昭和60年3月28日判決)。

 

 

 

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