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して裁判所に呼び出されることがある。前に事例3、のように、火災原因調査書類の文書送付の嘱託が裁判所よりなされ、一部の書類がプライバシー等を理由として裁判所に提出されなかったり、あるいは、火災原因調査書類の記載内容の意味がわかりにくい等で職員が証人として呼び出されることがある。そこで、証言を求められる内容に秘密に属する事項がある場合に、職員はどうすればよいか。

現行民事訴訟法272条の規定により、公務員または公務員であった者を証人として職務上知った秘密について、尋問するには、裁判所は、その公務員の所属する官公署の長の証人を得ることが必要である。

そこで消防署長は、職務上の秘密に属すると判断すれば、その点について、消防職員に証言させなくてもよい。職務上の秘密に属する部分と職務上の秘密に属しない部分の両方にわたって証言を求めるときは、証人としての消防職員は、職務上の秘密に属しない事項だけを証言することになる。

現実に証人尋問の場になると、消防職員は、証人となる経験が少ないので、あがってしまい、適切な証言がなされない恐れがある。

そこで、そのようなことがないように、消防署長としては、事前に十分証言を求められる内容について、証人として呼び出されている職員と打合せをする必要がある。求められているのは、消防署の行った『火災原因調査』に関する証言で、消防署として取り組む必要があるからである。

新しい民事訴訟法では、公務員または公務員であった者を証人として、職務上の秘密について尋問する場合には、裁判所は当該監督官庁の承認を得なければならない(新民事訴訟法191条1項)との規定はある。

しかし、この承認は、公共の利益を害し、または公務の遂行に著しい支障を生ずる恐れがある場合を除き、拒むことができない(新民事訴訟法191条2項)とされているので、注意を要する。

 

事例5、刑事事件の証言

『事例内容』

刑事事件の失火罪の証人として、火災原因調査を担当した消防職員が、召喚を受けた場合、職務上の秘密に属する事項についても、証言しなければならないか。

『解説』

刑事事件の場合も、公務員または公務員であった者が知り得た事実について、本人または当該公務所から職務上の秘密に関するものであることを申し立てたときは、当該監督官庁の承諾がなければ証人としてこれを尋問することができない(刑事訴訟法144条本文)。

但し、当該監督官庁は、国の重大な利益を害する場合を除いては、承諾を拒むことができない(同法同条但書)。

そこで、職務上の秘密に属する事項でも多くの場合、証言がなされることになる。

 

事例6、裁判事例

『事例内容』

PL責任を追及する裁判で、火災原因調査書類が証拠として採用された事例があるか。

『解説』

1 PL法が制定、公布される前の事件だが、テレビの欠陥により火災になったとして裁判になった事例があり、証拠として火災原因調査書類が援用された事例がある。

これは、Yテレビからの発火について、テレビに欠陥があり、それを流通においた不法行為があるとして訴えられた事件で事件の概要は次のとおりである(大阪地方裁判所平成6年3月29日判決、判例時報1493号29頁)。

2 Yテレビ発火事件の概要

X会社(代表者A)は、Aが所有する鉄骨造の共同住宅に増築した建物の二階部分に、昭和62年7月に移転して事務所とした。

Aの友人のBが、Y会社が昭和62年6月に製造したテレビをC電器店で購入してX会社に贈与し、X会社は、本件事務所内の北西角にあるテレビ台に本件テレビを設置して使用していた。

X会社では、本件テレビを常時コンセントに電源コードのプラグを差し込んでおり、主電源を切ることなく、リモコンで使用していたが、たまに使用する程度であった。

昭和63年3月8日にX会社の従業員Dが、本件事務所内で勤務中、本件テレビの後部から黒煙が出始めたため、電話で11

 

 

 

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