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9番通報をしていたところ炎が出始めた。

Dはその後コンセントからプラグを引き抜き、事務所内のブレーカーを下ろし、非常ベルを鳴らして、屋外に退出した。

結局火災により、本件事務所内が焼損し、備品が消失するとともに、放水のためにEがパブとして営業していた一階店舗が浸水し、その損害258万円はX会社が支払った。

そこでX会社は、欠陥のある本件テレビにつき、不法行為に基づき、本件事務所内のファックス、コピー機、テレビ等の損害421万7,800円、Eに支払った258万円、弁護士費用50万円の合計729万7,800円の損害賠償請求をY会社にした。

裁判所は、本件火災の客観的焼損状況から、本件火災は本件テレビの発火によるものであることが強く推認されるとして、火災原因判定意見書等について次の判断を示している。

『判例時報1493号』

「消防士長の作成による火災原因損害調査報告書は、出火箇所を応接室としながら、出火原因、発火源とも不明とし、また火災原因判定意見書は、結論において本件火災の原因を不明としている。

しかし、右意見書の結論は、煙草の火の不始末や屋内電気配線、外部侵入者または内部者による放火及び応接室に置かれていた石油ファンヒーターによる出火の可能性について、個々に検討を加えた結果、いずれも本件火災の原因である可能性は薄いか、否定されるとした上で、唯一本件テレビについて、火災の原因となった可能性があると指摘しながら、溶融、焼失のため部品の絶縁状況やハンダ付けの状況を見分することができず、また本件型式テレビについての発火事故の報告がないことを理由に、明確な論述はできないとしたものであり、右意見書もまた、本件火災の発火源が本件テレビであった可能性が高いことを推認させる内容と判断される。

なお、実況見分調書によれば、応接室内では、本件テレビと並んで、西側壁北側部分の焼損も著しいとされているが、同調書でも、右部分から発火したことを窺わせるような焼け込みや配線の溶痕等は見い出せないとされているから、壁の右部分については、本件テレビの発火により延焼着火したと考えても矛盾はない。」(判例時報1493号44頁)

このほか、証言等から裁判所は、テレビの製造業者であるY会社に対し、441万7,000円の損害賠償責任を認めた。

このように、火災原因判定書は、PL責任を追及する場合の重要な証拠となるので、火災原因調査は正確に行わなければならない。

 

事例7、火災原因調査書類の署名捺印

『事例内容』

火災原因調査書類を刑事事件で証拠とする場合、署名捺印を要するものについては、記名捺印では駄目か。

『解説』

1 供述書等の証拠能力

刑事訴訟法321条1項では、被告人以外の者が作成した供述書またはその供述を録取した書面で供述者の署名もしくは押印のあるものについて、一定の条件のもとに証拠能力が認められている。

この場合は、ともかく供述者の押印があればよいのだから、記名捺印でも証拠能力が認められる。

2 被告人の供述書等の証拠能力

被告人の供述書及び供述録取書の証拠能力については、刑事訴訟法322条1項により、被告人の署名または押印のあるものは、一定の条件のもとに証拠能力が認められており、これも押印があればよいから記名捺印でも証拠能力がある。

3 官吏作成文書の証拠能力

官吏その他の公務員が作るべき書類については、特別の定めのある場合を除いて年月日を記載して署名押印し、その所属の官公署を表示しなければならない(刑訴規則58条)。

この場合は、署名押印が必要となるが、特に本質的と認められるもののほかは、書類作成の真正であることが認められる限り、必ずしも無効とはいえないと解する。

しかし、実務的には、火災原因調査書類について、署名押印をしておくべきである。

 

 

 

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