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消防行政紛争事例解説

全消会顧問弁護士 木下 健治

 

火災調査に関する紛争について、「ほのお」97年2号に引き続き解説する。なお、意見にわたる部分は、筆者の個人的見解である。

 

事例3、文書送付の嘱託

『事例内容』

隣家Yの失火により類焼した家の所有者Xが、Yを被告として損害賠償請求をしている訴訟事件で、裁判所より「火災調査書類一式」の文書送付の嘱託が、A市消防署長に対してなされた。消防署長は、それに応じなければならないか。

『解説』

1 文書送付の嘱託

裁判所から、事例のような私人間の民事事件に関して、火災調査書類一式の文書送付の嘱託がなされる場合がある。

文書送付の嘱託は、裁判所が「書証」(文書内容の証拠)とすることができる文書について、その文書の所持者にその提出を依頼することである。現行民事訴訟法319条の規定により、民事裁判の当事者が、文書の所持者に対して、裁判所に文書の送付をしてもらうよう申立てることができ、その申立を裁判所が裁判のために必要であると判断すると、文書の所持者に嘱託することになる。平成8年6月26日に新しい民事訴訟法が公布され、公布の日から2年以内に施行することになっているが、新民事訴訟法では、文書送付の嘱託については、第18条に規定され、内容的には現行民事訴訟法319条と同じである。

文書送付の嘱託は、文書の所有者が文書提出義務を負っている、いないにかかわらず行うことができる。

これは、制裁を伴わない任意の提出を求めるために行われる。この文書送付の嘱託は、官公庁の所持する文書に対して多く行われ、消防当局の保管する火災調査書類についても、文書送付の嘱託が行われている。

2 文書送付の嘱託とプライバシー等の関係

そこで問題となるのは、プライバシーに触れると思われる書類又は職務上の秘密に属する文書が、火災調査書類の中に含まれている場合であっても、消防当局は、文書送付の嘱託に応じなければならないかである。

文書送付の嘱託は、任意の提出を求めるために行われるものであるから、プライバシー保護の必要等や職務上の秘密に該当する書類については、文書送付の嘱託に応じなくてもよいと解する。他方において、裁判所に協力することも必要である。

そこで、火災調査書類の全てを不提出とするのではなく、右に該当する部分を除外した残りの文書を提出すればよい。

火災調査書類に対する文書送付の嘱託は、「火災調査書類一式」としてなされることが多いため、このような問題が生ずる。そこで、この問題を解決するためにどのような場合に、どの文書について、文書送付の嘱託に応じないことにするかの基準を策定すべきであろう。また、そのような配慮から、火災調査書類について、文書の編綴をどのようにしたらよいかの検討も必要であろう。

 

事例4、民事事件の証人呼出

『事例内容』

事例3、のケースで、裁判所より火災原因調査に当たった消防職員Aに対し、証人呼出の通知がきた。Aとしては、どう対応したらよいか。

『解説』

火災調査に関与した消防職員が、証人と

 

 

 

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