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大西洋中央海嶺や東太平洋海膨などの海洋底拡大軸では,玄武岩が噴出して,現在新しい海洋底が誕生している。この玄武岩の火山活動に関連して,海水を起源とする熱水も噴出している。この熱水と海水が混合すると,熱水に溶解していた硫化物や硫酸塩が過飽和となって,沈殿する。この沈殿物が海底熱水成鉱床を構成する鉱物である。その鉱物組成は,愛媛県の別子鉱床で代表されるキースラーガー型鉱床に類似している。海底熱水作用は,沖縄諸島の中国大陸側に位置する沖縄トラフなど,背弧海盆でも見られる。それに伴って,ここでも,中央海嶺と同様,海底熱水成鉱床が生成している。ただし,その化学組成・鉱物組成は多少異なり,秋田県北鹿地域に広く分布する黒鉱型鉱床に類似している。なお,海底熱水鉱床の鉱化流体は,海洋地殻中に流入した海水がマグマで加熱される過程で,玄武岩中の有用成分を溶かし込み,上昇してきたものと考えられている。

沿岸部を除いて,海底の水温はほぼ4℃である。また,一般に海底には生物の遺骸を含む末固結の堆積物が形成されている。この2つの理由により,海底下にはメタン水和物(メタンハイドレイト)の鉱床が存在する。メタンなどの気体成分を溶解した水は,低温で気体水和物と呼ばれるシャーベット状の固体になる。この化合物は,水分子でできる籠状の構造に気体分子が取り込まれているため,構造的には包摂化合物と呼ばれる。天然では,最初シベリアやアラスカなどの永久凍土の地下から発見された。その後,海底下の探査が進んで,海底下には鉱床を形成するほど多量のメタン水和物層が存在することが判明してきた。このメタン水和物層は,ほぼ海底面に平行に発達している。つまり,海底堆積物中の等温面に沿って発達している。メタンは堆積物中の生物遺骸が分解して生成されたと考えられる。

海底および海底面下の探査を考えた場合,大気下の陸地より有利な点がいくつかある。最も有利な点は,弾性波探査(地震探査や音波探査の総称)が容易に利用できることである。弾性波は,密度の異なる物質の境界面で反射される。この反射波を受信することにより,物質の密度の違いを遠隔で測定することができる。これが弾性波探査である。海域では,音の発生器と受信器を船で曳航することにより,ほとんどあらゆる場所で音波探査の適用が可能である。まず,音波は海水と海底堆積物の境界で反射される。これにより,海底地形が測量される。次に堆積物中に入った音波は,堆積物の密度が変化する面で反射される。未固結の堆積物と固結した堆積物では,密度が大きく異なるため,音波は容易に反射される。これによって,メタン水和物層が発見された。

石油鉱床の位置は,堆積岩の大きな地質構造に規制されている。このような構造は,地震探査の格好の対象物である。発見された石油は流体であるため,比較的容易に地上ないし海上に取り出すことができる。これが大陸棚の資源で,石油が最も多く開発されている理由である。

石炭鉱床も層状であり,弾性波探査の適用が可能である。しかし,石炭は団体であるため,未だに人がこれら資源の存在する場所に入ることによって,採掘されている。このため,深部の開発はコストが嵩む。これが,海底の石炭鉱床が少ない理由である。

鉱物鉱床は,石油や石炭などの燃料鉱床に較べて,鉱床の存在位置を規制する地質構造の規模が小さい。このため,弾性波探査では鉱床の存在位置をほとんど絞り込めない。また,弾性波探査等の物理探査では,岩石の物性値の空間的分布しか把握できない。これに対し,鉱床特に鉱物鉱床では,化学的性質の空間的分布を把握する必要がある。そのためには,各地域において物性値と化学組成との関係を知る必要がある。そのためには,実際の試料を手にしなければならない。この試料の採取に経費が嵩むため,海域での鉱物資源の探査は敬遠されている。

1952年,中国の東北部で発見された大慶油田は,石油鉱床の探査に革命的知見をもたらした。それまでに発見された大油田はすべて海成層を母岩としていたのに対し,大慶油田は陸成層中に存在していた。この発見により,それまで排除されていた陸成層からなる堆積盆も探査対象に加えられ,次々に成果を挙げている。しかし,世界の石油資源のほとんどが,海成層を母岩としていることに変わりはない。したがって,石油探査にとって海洋地質学的知識が未だに最重要項目である。

水中の堆積物が固結した堆積岩には,堆積当時の水が捕獲されて残っている。これを地層水という。典型的な石油鉱床では,トラップの上部に天然ガス,次に原油,下部に塩水が,それぞれほぼ水平な境界面をもって存在する。この塩水も過去の海水である。海成の堆積物で,多量の海草がともに沈積した場合,その堆積岩の地層水には,生物の分解で発生するメタンガスとともに,海草に含まれていた沃素が溶解している。このような過程で生成した天然ガスと沃素の鉱床が,千葉県の茂原地方に広く分布している。この地方の沃素生産量は,世界の2/3に達する。

石炭とは,枯死して地中に埋没した植物が,還元環境下で炭化(単純には,C/H比が上昇)した結果の産物である。地球の歴史には,この石炭が大量に産出することで特徴づけられる時代があり,それを石炭紀と呼んでいる。もちろん,この時代以外にも多くの石炭鉱床が生成している。いずれの時代の石炭鉱床も,その原料となる植物は,海水と陸水とが混じり合うような環境に生育していたことが,母岩となる堆積岩の解析から明らかになっている。ここでも,海の存在の重要さが認識される。

 

 

 

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