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3-3 総合的海洋科学の視座(一部事例)

 

3-3-1 資源論的海洋科学

人類を含めて生物は,気圏,水圏,岩石圏の境界部付近に生息している。これら3圏のうち,気圏の下底を通常地球表面という。この地球表面において,70%以上は水圏が占め,海(あるいは海洋)と呼ばれる。残りの30%弱が陸(あるいは大陸)である。水圏の下は岩石圏で限られている。この岩石圏のみに注目しても,海洋と大陸が分けられる。岩石圏表面の高さの頻度分布は二峰性を示し,頻度の極小が海抜で-1500m付近に現れる。これだけでも,大陸と海洋で地殻の性質が異なることが示唆される。海水に覆われているが,大陸地殻の性質を示す部分を大陸棚という。また,岩石圏に注目したときの大陸と海洋の境界が大陸斜面である。この結果,岩石圏に注目したときの海洋は,海抜で-2000m以深となり,一般に深海底と呼ばれる。以上のことから明らかなように,海洋における資源を議論するときは,海洋を大きく水圏の海水と,岩石圏の大陸棚および深海底に分けておく必要がある。

水圏における最も重要な資源は,食糧としての海産物である。これらの分布は一般に水深および水温に規制されている。このうち,水深に関しては,一般に深くなるほど資源量が減少する。これは,海棲生物のほとんどが,直接ないし間接に太陽エネルギーに依存して生息していることによる。しかし,深海底には,地殻から噴出する熱水のエネルギーに依存して生息しているシロウリガイ等の生物もいる。水温分布と魚群との関係は極めて複雑である。これに関しては,為石(1997)の興味深い総説があるので,詳細はそれに譲って,ここでは省略する。

海水から得られる鉱物資源として,水そのものと,そこに溶存している塩類がある。水そのものの利用は,基本的に冷却水に限られる。日本の工業地帯が沿岸部に立地している理由として,?建設用資材の搬入が容易なことと,?原材料を海外に依存していることに加えて,?容易に工業用水が得られることが挙げられる。溶存塩類で最も利用されているのは,NaCl(鉱物名は岩塩)である。食卓塩として利用されるほか,各種化学工業の原料となる。他の溶存成分の利用としては,例えば,マグネシウムを,

Mg2++Ca(OH)2→Mg(OH)2↓+Ca2+

なる反応によって沈殿させ,耐火材の原料としている。前者は蒸発岩鉱床から得られる岩塩と,後者は天然のマグネサイト(MgC03)あるいはドロマイト(CaMg(C03)2)と競合関係にある。核燃料資源としてのウランを海水から回収しようという研究が一時期行われた。しかし,高品位のウラン鉱床が発見されるに及んで,このプロジェクトは実用化の目途が立つ前に終息した。

岩石圏のうち,大陸棚の鉱物資源の賦存位置は,海底面と海底下に分けられる。海底面には,陸上の地表と同じく,砂鉱床が存在する。マレイ半島沖の砂錫鉱床が最もよく調べられ,開発されている。南アフリカ・西アフリカ沖,あるいはオーストラリア西岸沖などでは,砂ダイアモンド鉱床の存在が知られている。砂金や砂白金の鉱床も存在するはずである。これらの海底砂鉱床をいかに発見するかは大きな課題である。

大陸棚の地質は,基本的に大気下の陸地と同じと考えられている。したがって,大気下の陸地で見られるすべての燃料および鉱物鉱床が期待される。このうち,最もよく調べられ,大々的に開発されているのが海底石油鉱床である。メキシコ湾,ペルシャ湾などの石油鉱床は,その開発が陸域から海域へと進んでいった。また,北海油田はすべてが海域に存在する。海底石炭鉱床も開発されている。しかし,その割合は,石油鉱床に較べて微々たるものである。さらに,海底下の鉱物鉱床に至っては,まったく開発されていない。これらの相違が生じた原因については,後述する。

深海底表面は,大気下の地表とは異なる環境にある。このため,独特の鉱床が存在する。そのうち,主なものは,マンガン団塊,富コバルトクラスト,および海底熱氷成鉱床である(正路,1991)。

深海底表面の堆積物上に,ジャガイモ大の黒色の団塊が存在する。鉄・マンガンの水酸化物と陸源の砕屑物を主とし,少量の自生鉱物からなるため,マンガン団塊と呼ばれる。有用金属元素として,マンガン以外に銅とコバルトを含む。団塊はほとんどが堆積物表面から10cm以浅に存在し,1mの深度まで入ると皆無である。この産状から,団塊が未固結の堆積物中に浮いているように見える。しかし,密度の関係からそのようなことはあり得ない(団塊は約2.2g/cm3,堆積物は約1.5g/cm3)。4価のマンガンは難溶性であるに対し,2価のマンガンは易溶性である。このため,堆積物中に埋没したマンガン団塊中の4価のマンガンイオンは,生物遺骸の分解によって生じる還元環境で2価イオンに変わり,間隙水に溶出すると考えられている。ただし,溶解途上のマンガン団塊は未だに発見されておらず,1つの大きな謎である。

深海底には多数の火山が存在し,これを海山という。ハワイ諸島はこのような海山で,標高が海水面より高くなった火山である。海山の山頂あるいは山腹の水深1000〜2500m付近がマンガン団塊と同様の物質で被覆されていることがある。この被覆物は,マンガン団塊に較べてコバルトに富むため,富コバルトクラストと呼ぶ。富コバルトクラストには,白金も濃集している。

 

 

 

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