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すが、小規模な農家の生活態度からくる慣行も環境悪化の問題に寄与していると思います。また、都市地域では、農村貧困層の都市への移住の増加が都市部における生活の質の低下に寄与しております。

ですから、持続可能性を論ずるとき、また、環境問題を論ずるときには、貧困の問題も取り上げなければならないのだということが重要であります。そこで、所得配分の問題があります。地域内における現在の問題について本日論議を進めるべきテーマの一つは、供給過剰の問題であります。急速な成長の結果として商品は豊富になりましたが、需要はある程度限定されていて、商品を売るための厳しい競争が国々の間で起きております。この点について、私には、所得分配によって商品に対する需要を喚起し、それによって、将来における持続的発展を実現していかなければならないと思われます。

最後に、所得分配を改善することが、政治的および社会的な安定のために非常に重要であります。これは、特に、複数の民族、複数の宗教が混在する国であるマレーシアにとって一層重要であります。実際、この理由によって、貧困の撲滅と経済的な格差の縮小が、1970年代初期以来のマレーシアの開発計画で最優先課題とされたわけであります。

1969年の種族暴動が起こった結果、この二つの重要な問題、即ちこの国における貧困の撲滅と経済的格差の解消に焦点があてられてきました。60年代の経験をみますと、急速な成長があっても公正な分配が行われなければ、1969年のような失敗が起きてしまうことがわかりました。1970年以来、貧困の撲滅と所得不平等の是正に重点を置いてやってきて、マレーシアにおける貧困の状態と所得不平等の状態は、大幅に改善されました。

配布資料の私の論文の中には、ちょっと技術的な問題もありまして表が入ってない(注)のですけれども、マレーシアの貧困統計および所得分布統計を見ていただきますと、マレーシアの貧困発生率は1970年の52.4%から1990年の17.1%、そして95年の9.6%にまで低下してきております。(注:本報告書186頁以下)

世界銀行の評価によりますと、マレーシアにおける「貧困線」(poverty Iine)の所得はどちらかというと緩やかなわけです。実際、一日USドルを貧困線の所得と考えますと、マレーシアにおいて貧困は存在しないと考えられることになります。これは、最近の世銀調査の97年推計によるものであります。

注目に値する興味深いこととして、貧困発生率の低下は、少なくとも1970年までは所得不平等の縮小を伴っていたということであります。所得の不平等を推計するための「ジニ係数」(Gini'coefficient)をみますと、1970年の0.502から、1990年の0.445に低下したことがわかります。 しかし、不幸にも、80年代中頃の自由化政策の実施以降、マレーシアにおける所得の不平等があらわになってきております。95年までのデータでは、所得の不平等が拡大していることが示されております。90年のジニ係数が0.445だったのが、95年には0,464に上昇しました。

 

 

 

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