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それから、もう一つの問題、同様に重要でありながらあまり改善されていないのが、地域間の格差の問題であります。1人当たり所得を州ごとにみますと、マレーシアには14州あるのですが、1人当たり所得の比率を、もっとも貧しい州の一つであるクランタン州についてみますと、0.4から0.3に低下しました。これは、州の1人当たり所得の国民1人当たり所得に対する比率であります。ですから、概括的にいえば、マレーシアは、1990年代の期間を除けば、貧困発生率の低下と所得不平等の縮小を伴いつつ、急速な成長の目立った記録を達成したということができます。

貧困の発生率と所得の不平等のデータ・ソースとしてそのほかに何があるでしょうか。前に申し上げましたように、貧困の問題と所得不平等の問題が開発計画作成において必須となったために、1970年代初めから、政府は所得データを「世帯所得調査」(Household Income Survey,HIS)を通じて収集しております。この調査は、1974年から始まってほぼ2、3年ごとに実施されてきております。ですから、74年、76年、80年、84年、87年、89年、92年、そして95年のデータが入手可能であります。

データの質についてでありますが、いくつかのアセスメントが行われておりまして、80年代後半、世界銀行の研究者による研究では、データの相互チェックをした結果、マレーシアの所得調査は非常にうまく実施されており、発展途上国で行われた調査の中では、もっとも信頼のできるものに属するとみられると結論づけております。そのような意味で、マレーシアは所得データとしてよいものを持っているといえるわけであります。とはいいながらも、いくつかまだ、データについての問題があります。私は、この問題をデータのユーザーとしてみていることを強調しておきたいのであります。データを作る側の人もいますし、私自身はデータのユーザーとして関係しているということであります。

世帯所得調査によって収集された所得の構成要素の詳細をみてみますと、これはかなり包括的でありますけれども、ひとつデータの収集から欠落している重要な点があります。つまり、世帯にとって発生していない定期的な収入を含んでいないということであります。一つの重要な構成要素は、会社の中にあって分配のされていない利益(留保利益)であります。何らかの推計は行われております。その額はかなり大きいと推測されております。もしこの利益が分配されていれば、これが高所得者層特にトップ5%の人々の手に渡る可能性が高いだろうと考えております。

そのような意味で、この国における所得不平等の推計を用いる場合には慎重でなければなりません。経済が好況で、会社が投機も含めて膨大な利益を得る可能性の高いときには、誰が急速な成長の恩恵を手に入れるかを概観するについて、この構成要素が重要な意味を持つと思います。残念ながら、世帯所得調査はこの構成要素を含んだものにはなっておりません。

もう一つの問題は、所得の計算方法にあると思います。世帯所得を計算する際に、明らかに、世帯内即ち世帯メンバー間での所得の移転は、含まれておりません。ただ、ここで一つ言わなければならないことがあります。世帯内で働いているメイドの所得は、世帯所得の一部と考えられており

 

 

 

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