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3. 今後の施策に向けて

 

今回の調査は、アンケート対象者を通して、社会で暮らす人たちの「こころの健康」についての関心の有り様を知るとともに、「こころの健康」への関心が高まる方向を探ることがひとつの目的であった。

もうひとつの目的は、精神障害(者)についての知識、出会いの有無などを聞くことにより、今後の啓発活動に役立てるための情報を得ることであった。

このふたつの目的を結ぶことは、私たち調査にあたる者が、地域のひとたちを単に「啓蒙の対象」と捉えることなく、社会で暮らす人たちの生活感情から学ぶことを基本姿勢とすることで可能になる。ここでは、このふたつの目的を結びつつ、ノーマライゼーションの方向を目指す「啓発キャンペーン」の方向を探るとともに、施策の提案を行いたい。

 

1) 啓発キャンペーンの受け入れと政策提言

 

a ライフステージで変わる関心

「自殺による死亡が交通事故死の2倍ある」ことは、あまり知られていない事実である。それでも年齢が高くなるにつれて知る人は増え、「60歳以上」では16.7%が「知っている」と答えている。「中学生の不登校が1.5%いる」ことを知っていたのは、中学生から高校生を育ててきた年齢の「40〜59歳」が最も多く25.5%である。

問2によると、「こころの健康について知りたいこと」は、「子育て」「学校生活」「夫婦関係」「職場のストレス」に関することでは「20〜39歳」で最も多く、「退職後の生活」「高齢者の介護」に関することは、年齢が高くなるにつれて増加する。

独立した選択肢としての「精神障害についての知識」の求めは、年齢による変化はほとんどなく、17%前後にとどまる。一般の関心を抽象的に「精神障害についての知識」に向けることは難しい。ライフサイクルのなかに危機があり、危機の発現のひとつが精神障害であるとしたら、ライフステージに応じた健康教育の一環として精神保健教育を行うことは、考慮されてよい。

 

b 「用語」と地域の人たちの受け取るイメージ

「重く深刻な印象」を与え、「日常生活で介護の負担が大きい」のは「精神病」で59.1%と44.1%であり、「身近なひとに使いやすい」のは「こころの病」で65.3%という結果である。また「精神障害」は「重く深刻な印象」は与えないが、「精神病」と「こころの病」の中間の介護負担(25.2%)があり、「身近なひと」には使いやすくない。また「精神疾患」という用語は、いずれの質問にも少数の回答であり、馴染みが薄いようだ。「こころの病」は、身近なひとには使いやすいにしても、障害という実態を表すには難しい面がある。正直に言うと、いずれも「帯に短かし、たすきに長し」であるが、より適切な用語がない以上、消極的選択はやむを得ない。

私たちが使うことばは、専門用語であったり、ある状態を説明するために「つくられた

 

 

 

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