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4 樹木の防火力   ―各種の実験から一

 

1)熱的環境と樹木の対応

都市防火の一環として樹木を活用する場合、念頭に置かなければならないことは、

樹木が、(1)火にどこまで耐えるか(耐火力)ということと、

(2)熱をどれだけ遮断するか(述熱力)という2点である。

樹木の防火機能は、この二つの力により支えられる。

樹木が防火上有効であるためには、く炎上せず、その形状が維持され、遮蔽物となる〉ことが必須の要件である。

樹木への熱の影響は、当初は主として樹木の外周に位置し、熱に直面する葉(樹冠)への影響である。但し、熱を受けてもそのまま樹葉の温度は上昇しない。これは直射日光を受けた場合の温度上昇防止の原理から説明できよう。葉は日光を受けるとそのエネルギーを吸収し、これが許容量を超えると体内に熱として貯留される結果、葉温が上がり、これが極めて高温の場合には組織等に障害を受けることになる。ところが実際は葉温は気温と大差がない。これは、葉温が気温より高くなると、熱が放射により周囲の空間に放出されること、葉の水分蒸散作用によって多量のエネルギーが消費されるため、葉は冷却されること等による。

火熱を受けた場合もこれと同様で、樹葉は熱を受けると水分を放出し、この気化熱への変換によって温度上昇は暫時おさえられる。また、重なり合った葉は、樹冠への熱の浸透を防ぐとともに、その複雑な形状はラジエータのように熱の放射に役立つと考えられる。

このように、冷却作用によって上昇を抑えられた葉温も、より受熱量が増大すると、受熱と放熱とのバランスが崩れる結果上昇がおこる。一般に、一枚の葉によって吸収される熱量QRは、次の式で求められる。

QR =QL + QS + QM + QH

ここで、QR:純受熱量 (火熱から直接葉に与えられる熱量)

QL:潜熱伝達量(葉からの蒸散に使用される熱量)

QS:顕熱伝達量(葉から周辺空間への放射熱量)

QM:貯 留 熱(放射量より吸収量が多いとき蓄えられる熱量定常状態ではQM=0)

QH :代 謝 熱(植物代謝に使われる熱量、定常状態では無視できる)

樹木が火熱を受けQRが増大してゆくと、QLとQSが防火作用として増加してゆくが、葉中の水分には限度があるため(実験によれば、根からの吸収は間に合わない)、蒸散による冷却機能が追い付かなくなってくる。また、放射量も受熱量に追い付かず、ここでQRと(QL+QS)とのバランスが崩れ、QRが増加し、結果として葉温が上昇し、これが極めて大きい場合には熱分解に至る。

 

 

 

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