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3 樹木の防火効果―2  ―調査の事例から一

 

この線としての効果は町なかの火事現場調査などでも明かである。その例を紹介する。板橋区小茂根の家具店の火事: 遮蔽物の無かった隣の木造アパートへは延焼。しかし、

庭に植え込みのある隣家は樹木の上部を焦がしたのみで建物は無事。

飛騨古川町の大火: 神社の大イチョウが社への延焼を防ぐ。

房総君津市の火事: 3棟並んでいた木造平屋の長屋のうち端の1棟から出火、隣棟には

すぐ延焼したが、一番風下の棟は棟間に列植されたマテバシイが炎を防ぎ、無事。常陸筑波町の火事: 15m/secを越す強風下、6棟の家屋に次々と延焼、580平方米を焼き、3所帯14人が焼け出されが、宅地との境界の樹齢100年の杉10本が炎を舞い上げて防ぎ、風下の落葉の堆積した雑木林には延焼なし。

遠州秋葉山の山火事: 秋葉山一山を焼くも、中腹の神社(三尺坊という水の神の社)は無事。水の神が火を防いだと評判になったが、社周辺の杉木立の効果が大。

仙台市の山火事: 全山しかも広大な面積を焼き尽くした山火事であったが、青紫神社の古い木造の社は周囲を囲むシラカシの木立に守られ、無事。

 

1)酒田市大火

線としての効果のうち特殊な例は、1976年10月29日の酒田市大火であろう。この時の新聞は挙って樹木の火災延焼防止効果を報じた。曰く、「上空の火の粉をそらせた大木‘揺れる防火帯’:相生町民はいま『お寺さま』に頭があがらない。この町が無傷ですんだのは、火の粉に面してたち並ぶ十ケ寺境内の樹木数百本が“緑の防火壁”となってくれたからだ。この寺の中央に位置する海安寺の広瀬智一住職。『大木は風と火の粉にあおられるたびに弧を描いて本堂のうえにたわみ、火の粉を上方へそらせた。揺れる防火帯になったということ』」(朝日新聞、原文のまま)。曰く、「水と緑:防火にも役立つ」(山形新聞)。要するに樹木が風にそよいで火の粉を舞い上げ、延焼を防いだというもの。ところが実際現地で樹木の被害状況と焼止まり効果のみられる部分を調査したところ、酒田の場合は焼土まり総延長のうち樹木関連は10%にしかならないことが分かった。これまでの大火の例では凡そ30%を上回っているのである。これが何故樹木が火を防いだと殊更大きく報道されるほど酒田の人々にその効果が印象づけられたのであろうか。

酒田市大火での樹木による焼止まりは、やや顕著なところが2箇所(300m)見られるに過ぎない。一方、焼失区域の北側はいわゆる寺町で、ケヤキとクロマツを主体とした高さ20mを越える樹林が運なり、緑が豊富であった。当初火はこの寺町に向かっていたが、途中から東へ方向を変え、寺の樹林に併行した方向に進んだ。

防風林に関する研究によると、空隙の少ない、即ち高密な樹林では、一旦遮断された風も

 

 

 

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