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を道路によって囲まれた空地であったが、樹木の無い裸地であった。区域の境界には鉄骨を組んだ板塀と幅1mほどの溝があった。比較的まとまった面積の空地であったため、空地内はもとより、周辺の道路もこの空地の安全性を信じて集まったであろう避難者で溢れていた。家から運んだ畳みを敷いたり、家具を置き周りを戸板で囲み、安住の地を確保し、ほっとした表情の一家、荷車に腰をおろし友人と楽しげに話しをしている○○小町と云われる美しい女性など当時の写真が残っている。

ところが、この直後火災旋風が起こる。南から迫った炎は、この樹木の無い空地で二つに分かれ、東から西へ巻き込まれて大旋風となった。都市大火に際して、裸地が旋風の発生の要因となることは、相馬博士の研究でも明かである。関東大震災死者総数の半数以上にのぼる3万人を越える命がここで失われる結果となった。窒息者や周辺の焼死者も合わせると名、315人の死者。そのうち、性別が判明できたのは男3,720人、女2,301人に過ぎなかったと云う誠に痛ましい結果となったのである。

ほぼ同面積であったこの両者が明暗を分けた第一の要素は、「樹木の存在の有無」であったといえよう。

 

5)空地の線としての効果

延焼を阻止する空地の効果を高める要素としての樹木は、火災時の「焼止まり」についても顕著である。火災の焼失区域の周縁を「焼止線」と称する。火がある面積燃え広がり、その後延焼停止するには、色々な力が加わっている。一つは人的な力であって、消防力がこの代表的なものといえよう。二つは自然の力であって、風向風速の変化、降雨、地形の変化、河川等とともに、緑の空地があげられる。一般にはこれらの力が複合して作用し、火災の拡大を阻止すると考えられるが、いま、このうち、緑の空地の関与する部分を調べてみる。

関東大震災:激しく変化した火流を防いだ要因の内、空地の主なものは、芝公園、浜離宮、星岡公園、日比谷公園、皇居、後楽園、湯島公園、浅草公園、上野公園のほか、若干の社寺と傾斜地であった。掟止まり総延長64,500mのうち、空地関連21,500m(33.3%)。

なお、江戸川区東部のように、畑、水田など燃えるものが無く必然的に焼止った部分はここでいう空地による焼止まりとは考えられないので、集計には含めていない。

福井市大火:東側は大規模な中央公園によって焼止まり、南側(風上側)は幅100mほどの足羽川が延焼を防いでいる。風下の末端は東本願寺おせ焼止まりとなった。焼止まり総延長5,400m、空地関連2,600m(48.1%)。

新潟市大火:火が風下市街地へ燃え広がるのを阻止したのは主として寺町の樹木であった。風上への延焼は新潟大学医学部のキャンパス(空地)で阻止された。

しかも、ここは市街地より7mほど高い地形の段差があったため、より大きな効果となった。焼止まり総延長4,650m,空地関連950m(20.4%)。

上記の様に、主な大火10例について被害状況や大火の性状を整理し、併せて焼け止まりについて集計してみると、焼止まりに空地が関連するのは、総延長の30%を上回ることが分かる。そして、これらの場合、空地というのは総て樹木を主体とした緑の空地のことなのである。これらは樹木の防火効果のうち「線としての効果」である。

 

 

 

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