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樹林のすぐ背後に渦をなして巻き込んでくる。ところが空隙の多い樹林であると林の中を抜ける風と上方を通る風との相乗効果によって、樹林直後への影響は少なくなる。特に密度50%ほどの樹林が最も好ましいと云う。寺町の樹林はまさにこの密度に近い林であった。その上、樹木は風によって枝葉が動く。従って、酒田の場合飛来する火の粉を樹木が枝葉を振るって舞い上げ、遠方へ飛散させる効果があったと云えよう。事実、火の粉の落下分布調査によると、当初の風下に当たる寺町の背後には殆ど落ちていない。焼止まりとして火災前線に接しない場合でも、樹木にはこのような線としての効果もあるのである。

 

2)日立市大火

1991年3月7日の日立市の大火は、山火事から始まり、170haを焼き、更に山林に接した新しい住宅地に被害を与えた。全焼8棟、部分焼4棟。山火事の7割は地表火と云われているが、調査したところ当市の場合もその例にもれず、典型的な地表火であった。高木は根元付近の片側のみ黒焦げ、火流の方向を示す片面燃焼を明瞭に示していた。構冠は、地表を走った炎の影響からか変色していたが、炎上の形跡はなく、従って樹形は留めていた。被害に遭った住宅の多くは斜面或はその頂上に建てられたもので、地表を這い、山をかけ登った火は、1mほどのブロック塀も乗り越えてしまったようである。

一軒、斜面を登り切った所の住宅で、ブロック塀など他と同様な条件にありながら無事な家があった。唯一の違いは、塀の中に2階ほどの高さのカンノキ(樹種不明)が並んでいたことである。塀から下は傾斜面だが、この斜面の下草や落葉は完全に燃焼し尽くしている。ところがこの一列に並んだカシノキは、葉は緑色を保っていた。下枝の高さは塀の天端とほほ同じであったが、根元はきれいに管理され、枯草もない。常緑樹であるから落葉も殆ど見られない。この家の場合、常緑広葉樹の列が火熱の影響を阻止したことは事実である。しかし、より重要なことは、この家の方々が樹木の根元を美しく、清潔に管理していたことではなかろうか。家の周りの地表に燃えるものが無かったと云うことである。

 

樹木の防火効果を云々する場合、地表を這ってくる火は些か問題がある。一般に、炎は立ち上がるわけであるから、上空にそびえる樹木の形は好適な遮蔽物といえる。一方、樹木は一番下の枝が地上からやや高い位置にあるのが一般的である。すなはち、地上付近には枝葉がなく空隙がある。地表火はここを通り抜けてくるわけで、樹木の泣きどころである。もっともサンゴジュのように地上まで枝葉を茂らせるものもある。この点でもサンゴジュは優れた防火樹であると云えよう。

我々は、樹木の防火力に期待すると同時に、その地表面に燃えるものを放置しないよう管理をすることが必要なのである。この地表面の火が原因で大火となった例を次に紹介する。

 

 

 

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