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2.直線基線と群島基線

東アジア海域の境界に影響を与える国連海洋法条約の新しい動きは、群島国家の周りに直線基線を引けるようになったことである。しかし、それには一定の条件を満たす必要があり、例えばフィリピンが南沙諸島を群島基線で囲もうとした場合、仮に主権を有する場合であっても条件を満たさないために認められない(訳者注:群島基線を設定するためには内部の水域と陸地の割合が一対一から九対一である必要がある。同条約第47条参照。)。この海域では、フィリピンの他にインドネシアが群島基線を設定しており、韓国と越が直線基線を設定した。日本は十分な水域の面積を持たないため群島基線を設定できない。中国は、群島国家ではないため、南沙諸島の一部の主権を認められたとしても通常の低潮線を基線とすることになり、境界画定も右に基づくことになる。

 

3.岩

国連海洋法条約は、人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩はEEZ又は大陸棚を有しない旨規定している(同条約第121条3項)が、南沙諸島や尖閣諸島を始め東アジア中部海域の多くの小島群はこのカテゴリーに該当する(地図1及び2参照)。岩と認定された場合は限定的なEEZ及び大陸棚しか有さないことが一般国際法となっているかどうかは微妙なところである。フィリピンやインドネシア等条約の締約国は右規定に拘束されるが、他の諸国は署名はしたが批准はしていないため、岩を基点に最大限の権利を主張できる。しかしかかる主張は境界画定の際に割り引いて考えられるであろう。

また”岩”の解釈も様々な余地がある。右は条約の紛争解決規定或いは国家実行による同意等に基づいて解決されるかもしれないが、個人的には経済的に自活しているか又はすることができる資源を有している場合は、条約第121条3項の岩としての規制を受けないと考える。

更に、たとえ岩であっても領海及び接続水域を有することまで禁じられているわけではないので、EEZや大陸棚の範囲を広げる基点となることはできる。また、条文に鑑みると限定的ではあるが直線基線や群島基線の基点となり、領海やEEZの幅を測定する基線を外側に広げることもあるかもしれない。条文は、岩自体が有しうる範囲は規定していても、岩と岩が連なった場合は想定していない。条約は灯台等の施設がある場合は低潮高地との間に直線基線を引くことを認めている。基線に関する条項は、人間の居住や経済活動を条件にしていないため岩も十分に基線を引く基点と考えられる。しかし右が境界画定に与える影響は小さなものである。かって南シナ海で領有権を主張するために軍事施設が岩の上に建設されたが、それが法的な地位としての”岩”を”島”に変更することはなかった。

 

 

 

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