日本財団 図書館


における『川上・川下の逆転』であると見ることができます。しかしこの点で、行政の対応は産業界の対応より大きく遅れてきました。あいかわらず国が県を指導し、県が市町村を指導すると言う上意下達の機構があり、市町村は国や県の顔色をうかがいながら、あるいは補助金をあてにしながら行政を進めるという構図が見られます。県から、「予算がついたので使ってくれないか。」といわれて、住民に本当に必要なのかと疑間を抱くような事業をやってしまうということがなかったでしょうか。住民のニーズに基づいて行政サービスをするというのは、実に当たり前なことですが、あえて、「流れを逆転させる」と言わなければならないほど、行政のシステム全体が、基本を忘れていると言えるのではないでしょうか。

さて、この流れの逆転は、住民と市町村の間でのみ起こるのでありません。「住民→市町村→都道府県→国」という情報の流れと、その流れを重視する心を、国も都道府県も市町村も住民も、皆が持つということが重要なのです。住民の主権を大切にして、上だの下だのという考えをやめるのが、地方分権の本当の考え方です。意識のある首長さんは、すでに、「地方分権ではなく、地方主権であり、住民主権だ」と言っておられますが、まさにそういうことなのです。住民主体の地域づくりは、その第一歩として、身近な地域の将来像をみんなで考え、みんなでその実現に向けて努力しようということです。そして、この住民主体の考え方は、文字通り民主主義の基本であると考えます。

 

●「住民参加」と「協働によるまちづくり」との違い

それでは、「住民主体の地域づくり」は、これまでの「住民参加」とどこが違うのでしょうか。日本の地方自治の基本は、「行政が住民に仕事を付託きれており、それを議会が監視する。」という関係です。住民はリコールや直接請求の権利を持っていますが、基本的には選挙を通じて行政に参加しています。しかし、より直接的な参加の機会もあります。地方自治体が総合計画などをつくるに当たっては、住民の代表を含む審議会をつくって、それに対応してきたわけです。ところが、このような直接的な住民参加を考えると、議会や自治会など既存の組織が気になります。そこで、住民代表とはいっても、既存の組織の代表、すなわち、従来の行政協力組織(町内会、民生委員、農協など)の長を集めた、いわゆる“宛て職”のメンバーの検討組織が作られるわけです。人選に規則があるわけではありませんから、審議の内容に強硬に反対しそうな人は、初めから委員に入れないなどということもあります。そして審議会では、事務局があらかじめ作ってある計画案の説明を受け、唯々諾々と認めるという経過が一般的だったのではないでしょうか。時に根本的なところで疑義が生じて議論が始まることもあります。そうすると、事務局の担当者が、「その点については、後日あらためて検討していただくとして、時間もないことでもあり、とりあえず本案を承認していただけるかどうかをお決め下さい。」などと訳の分からぬことを言って先へ進むというような次第です。意見を出しても、言い放し、聞き放しで、結局は、「計画案は原案通り承認されました」ということになります。こうして、「住民参加によって作られた計画」というお墨付きが得られる訳です。

本論で「住民主体の地域づくり」というのは、このような従来の「住民参加」とは違う、実質的な取組みであることを強調したいからです。行政の計画に住民が参加すると言うことではなく、行政と住民が、対等なパートナーとして計画をつくる。そしてその計画を実現するために一緒になって地域づくりをする、というのが、従来の「参加」とは異なる「協働」による地域づくりなのです。地域の将来を自分たちで考えるということですから、まちづくりに住民がかかわるのは、あたり前のことです。また本来、まちづくりは、行政だけでできることではなく、個々の住民やそのグループが、日々の生活の中で、各人のできる範囲で、地域の将来に資する動きを行うことにより、その総和として進むものであるからです。

 

●「協働によるまちづくり」の体制

ここで、協働による地域づくりの例として、現在、私が参画している、静岡県大井川町の「住民主体のまちづくり」について紹介します。大井川町の横山町長は、平成4年に初当選したときに、「住民主体のまちづくり」を掲げ、『自治組織活性化事業』を打ち出しました。この考え方に東京大学教養学部の大森弥先生が関心を持たれ、私も地域政策フォ

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION