日本財団 図書館


003-1.jpg

住民主体の地域づくり

橋立 達夫(?ヒューレ地域計画工房 代表取締役)

 

●はじめに

本論のテーマは、地方分権の時代にふさわしい地域づくりのあり方として「住民主体の地域づくり」を考えることです。すなわち、従来の「住民参加」とは一線を画す「住民と行政とのパートナーシップ」の考えに基づいた地域づくりを考えます。

 

●地方分権と住民主体の地域づくり

そこでまず、地方分権の意味を考えておきます。地方分権は、一般に、国から県へ、県から市町村への権限委譲というようにとらえられていますが、私は、そこには、より本源的な意味があると思っています。地方分権の目的は、民主社会の構築、すなわち民主的な意思決定のシステムを改めてつくることだと思うのです。

唐突に民主社会の構築と言っても分かりにくいかもしれませんが、わが国の民主主義は、今、かなり危ういところにさしかかっています。政官界の汚職や長引く不況、沖縄の米軍基地移転の問題など、国民の総意を問うべき政治の論点はたくさんあるにもかかわらず、国民の声はどこにも反映されません。世論調査で内閣支持率がどんなに下がろうと、政府はどこ吹く風。選挙で決めようにも、対抗する野党が今のような状態では、それもままなりません。結果として、若者を中心に政治への無関心が広がり、ますます主権者としての国民の声は弱まっていくのです。

しかし、民主的な意思決定に向けての流れは、実は別のところですでに始まっています。産業界では、すでに10年も前から、非常に大きい変化が起こっています。それは『川上・川下の逆転』と言われる変化です。従来はメーカーが技術開発を進めて次々に新製品をつくり、流通ル―卜に流せば、商品はドンドン売れていきました。冷蔵庫も洗濯機もテレビも、そして自動車も、こうして普及してきたのです。製造業が川上産業、流通業が川下産業と言われる所以です。しかし最近は、それでは商品が売れなくなってきました。メ―カーは「消費者が何を求めているか」を必死になって探らないと、ものが売れなくなったのです。そこで、もっとも消費者に近いところにいる流通業から、消費者のニーズの情報を得ようと、さまざまな工夫がなされるようになりました。その代表的な例がPOSシステムという販売情報システムです。皆さんはコンビニやスーパーで買い物をするときに、レジで店員さんに性別と年格好を見られて、買い物の情報とともに入力されているのを御存じでしょうか。

その情報は瞬時に本社に繋がり、本社では、今、全国で、どういう人がどういう買い物をしているかが、たちどころに分かるのです。その結果、本社では、たとえば、「現代の流行を創るといわれる都会の女子高生が、今、こういうものを好んで買っているから、これはやがて全国に広がっていくであろう。すぐに仕入を増やして全国の店に順次並べていこう。」と考えるわけです。そこで、メーカーに注文が出され、メーカーは増産の体制に入ることができます。家電製品の販売店でも、お客の購買動向や相談、苦情の内容を記録し、メーカーに送ることが、重要な仕事になっています。こうして、従来、川下と考えられていた流通産業が、もっとも重要な情報の発信源として捉えられ、川下の情報が川上を動かすという、川下と川上の逆転の状況が生まれたのです。すなわち、産業界ではすでに、消費者のニーズに基づいて、生産をコントロールするという仕組みができており、また、そのように変わりつつあるのです。

このことを地域の問題に当てはめて考えてみましょう。行政サービスの消費者は住民です。したがって、住民のニーズに基づいて行政サービスを生産するという考え方が、行政

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION