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しぶき量は相対風向が最も多く関与している。次いで、相対風速、波浪階級の順になっているが、船速が極めて小さい。本来ならば、船速が大きくなると船体船首部によって波を切る度合いが大きくなるから、しぶき量に大きく関与する。したがって、今回のデータは航行速度の階級幅が小さいものしか得られなかったことによるものと思われる。次に着氷量を見ると、大きく関与する因子はしぶき量であり、他の因子に比して2ないし4倍となっている。次いで気温、相対風向、相対風速、船速の順となっている。加藤は「着氷させないためには、しぶきを上げないことが一番である。しぶきが上がり、気温が下がれば着氷するという、従来よく言われてきたことと同じ結論になる。」と結んでいる。

要約すれば、着氷の主たる原因は、荒天下の船の航行によって引き起こされる海水のしぶきであり、船内甲板上に入るしぶき量と気温条件によって着氷量の程度に差が生じると言えよう。気温が高ければ、船内構造物に付着したしぶきは水滴となって落下し、船外に排出されるが、気温が低ければ結氷して着氷を引き起こす。船内に入るしぶき量は、相対風向・風速、波浪階級、船速によって決まり、しぶきの発生場所とその振る舞い(流路)に応じて船上構造物の近い場所から付着していく。船体の前部甲板付近に集中する機器類は着氷しやすい場所にあると言えよう。

 

3.3 着氷しやすい材質

上村11)らは、簡易着氷試験装置によって着氷の生成に及ぼす形状の影響を調べた。

噴射ノズルから500mmの位置に供試体をセットし、噴射条件及び風速を変化させて着氷実験を行った。円筒と平板の比較では、円筒が平板より着氷率が高くなったと報告している。円筒の場合は、捕捉された水滴が風速の影響で、管表面に沿って後方へ流されながら凍結するが、平板は捕捉された水滴が端部から飛散され着氷率が小さくなるとしている。径や幅が小さい場合は、風がないと捕捉水量は円筒も平板も同程度であるが、風速が大きくなると平板の方が小さくなった。径や幅を大きくしたときは、風速が大きくなると平板が円筒より捕捉水量が大きくなったとしている。

守村12)は、水槽実験でチェーン、ワイヤロープ、鉄板の着氷率を調べ、温度が下がるにつれて着氷率が上昇し、着氷率はチェーン、ワイヤロープ、鉄板の順に多かったと報告している。チェーンは平板に比して物体の形状が複雑で、衝突した飛沫が凹部に溜まるためであるとしている。

さらに、同試験装置により5種類の塗料を使用した材料の凍着力(せん断力)を求めている。この結果、油性白亜鉛塗料の凍着力が他の4種類の塗料より若干大きくなったが、5種類ともに温度が下がれば凍着力が上がる。-5℃付近では、油性白亜鉛塗料の凍着力が約3kgf/cm2、残りの4種類は長汕性フタル酸樹脂、塩化ゴム樹脂塗料、フッ素樹脂塗料、アクリルウレタン樹脂塗料の順で大きく、約0.5〜1.5kgf/cm2であったと報告している。

北海道立工業試験場が中心となって行った共同研究1)では、着氷力試験機によって各種材料の着氷力を求めている。この実験は、各種材料上の蒸留水を-10℃の定温室で凍着させ、せん断付着力を調べている。この結果、材料によって付着力が異なり、テフロンの場合は融点近くになっても付着力は低下せず、約1kgf/cm2であり、ガラス、ポリエステル樹脂塗装鋼板では-1〜-7℃の範囲で付着力が増加し、-7℃からは変化せず、ガラスが約5.5kgf/cm2、ポリエステルが約3kgf/cm2であったと報告している。

 

 

 

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