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(3)現状における対応策

これまでに発表された国内外の調査記録や発表文献によれば、陸上と異なり海上では「しぶき」が着氷の主要因となっており、これに特定の気温、風速が加わるときに急速に着氷が成長することが解明されている。

その後の関係者の努力と研究により、着氷の成長は海水温度の影響は極めて小さく、むしろ気温と船体の受ける風速が最も大きなファクターとなることが判明している。

従って、冬の北方海域のように波高の高い荒れた海面を高速でつっ走れば船体との衝突で頻繁に空中に舞い上げられる波しぶきは、風向にかかわりなく船上に降り注ぐ。

これに気温条件さえ整えば、まず着氷は免れないことになる。

着氷海難を防ぐための最善の方法は一番原始的ではあるが、着氷可能海面に船をおかないことである。しかしながら、現実面としては時間的制約や漁場との兼ね合いから、そのような選択が許されないケースがほとんどであろう。

気象観測技術の発達した現在では、かなり早期の段階で正確な予報が出されているので、出来るだけ対象海域を迂回して航海することが望ましいが、不幸にして着氷発生のおそれの大きい海面に船がとらえられた時は、しぶきの発生を極力押さえるよう操船することが肝要である。

激しい着氷の際には、船舶の乗組員は総出でハンマーや掛矢などを使って氷を叩き落とす作業を行う。激しい着氷は厳しい寒さと大しけのときに起こるから、この除去作業は苦しくて困難な作業となる。凍りついた氷は簡単には落ちないし、着氷の成長の速いときには落とすそばから凍りついていくので、除氷の速度と着氷の速度との差が致命的になるといわれている。

それゆえ、船体着氷を考える場合、氷を着かなくすることが最善の方法ではあるが、次善策として、着いた氷を出来るだけ簡単に除去する方法を模索することが海難防止のための即効性のある方法と考えられる。4)

 

1.3 研究開発の目的と指向性

その後も関係機関や当事者のなみなみならぬ努力や出漁漁船の性能向上にもかかわらず着氷海難を絶滅するには至っていない。また着氷防止・除去に関する装置も関係者の努力によって次第に開発されてきてはいるものの、抜本的なものとはなっておらず、未だ開発途上となっている。

経済的で、耐久性のある対策や装置の見当たらない現在では、多くの船舶が人力によるハンマリングという原始的な方法に頼っているが、乗組員の減少傾向の続く現在の海運界の状況に対応するためには、経済的、省人的で信頼性の高い着氷防止・除去策の一日も早い確立が望まれている。

このような状況から、船舶に対する着氷防止策を勘案することとしたが、その対象には当然船体構造そのものや運行操船技術についての対策も視野に入ってはくるが、既に船体関係については各国のルールや船級協会のルールに採り入れ反映されていること、運行操船技術については、1973年のIMCO(政府間海事協議機構)の漁船安全小委員会でも検討され、一応のマニュアルができていること5)、により今回の調査研究の対象から両者を除外し、甲板上に設置される機器類に限定して行うこととした。

 

 

 

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